「2%インフレ」という旗は降ろさない

 インフレ率がここまで上がれば、さすがに金利も上がる。将来、インフレ率が下がってくれば、また金利も下がる。当たり前のことに思えないだろうか。

 もちろん、長期的に「2%インフレを目指す」という旗は降ろさない方が良い。「1%インフレでよし」としてしまえば、また日本経済を外生的な需要ショックが襲えば、マイルドなデフレにも陥りかねない。

「またデフレが来るかもしれない」というセンチメントは、たとえそれがマイルドなものであっても、せっかく盛り上がってきた企業のリスクテイクに向けた姿勢を挫きかねない。

 一方で、だからと言って、短期の実質金利が大幅マイナスの緩和環境をずっと続けた方がいいことにもならない。

 金融市場のダイナミズムと、実体経済のダイナミズムは、相互に影響し合いながら経済成長を支えるものだ。もし次にマイナスの需要ショックが来たら、その次の景気拡大期にこそ2%インフレを実現するという目標を掲げつつ、必要な金融緩和は柔軟に行うという姿勢で良いのではないか。金融市場の側も、そういう金融政策をフラットに受け止めたいものだ。

 1990年代初頭にバブルが崩壊し、30年余りをかけて日本経済はここまで来た。かつてのような元気な日本経済に戻るまで、時代のスピードが2倍になっているとしても15年、3倍でも10年はかかる。

 大変な30年だった。だからこそ、今のチャンスは逃さないようにしたい。固い頭では、これまでと同じような過ちをまた繰り返してしまう。

 もう秋風が立つ頃だ。日本経済も、のびやかに、しなやかに、いざ前へ。

神津 多可思(こうづ・たかし)公益社団法人日本証券アナリスト協会専務理事。1980年東京大学経済学部卒、同年日本銀行入行。金融調節課長、国会渉外課長、経済調査課長、政策委員会室審議役、金融機構局審議役等を経て、2010年リコー経済社会研究所主席研究員。リコー経済社会研究所所長を経て、21年より現職。主な著書に『「デフレ論」の誤謬 なぜマイルドなデフレから脱却できなかったのか』『日本経済 成長志向の誤謬』(いずれも日本経済新聞出版)がある。埼玉大学博士(経済学)。

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