コロナ禍でいったん弱まった対外直接投資だが、日本生命保険による巨額買収が明らかになったように、再び海外への直接投資が増えている。政府は海外からの対内直接投資の増加を目指しているが、日本から出ていく投資資金の勢いのほうが明らかに強い。対外直接投資が対内直接投資を上回る状況は、日本にどのような影響を与えるのだろうか。(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
対外直接投資報道で円安
今年8月の本コラムでは「セブン&アイに対する5兆円規模の買収提案、「対内直接投資100兆円」という政府目標から見える“日本買い”の未来」と題し、海外企業による日本企業への買収提案とその展望などを議論した。いわゆる政府が目標として焚きつけようとしている対内直接投資に関する議論である。
2010年前後から、日本では日本企業から海外企業への買収、いわゆる対外直接投資が盛んに行われてきた。
その後、パンデミックを契機としてかつて毎年のように聞こえてきていた大型買収案件が鳴りを潜めたかに思われたが、近年では日本製鉄によるUSスチール買収が話題になるなど、その再起動が注目されてきたところであった。
その矢先、12月10日には国内の最大手生命保険会社による米系生命保険会社への買収が報じられた。大型海外買収が相次いできた日本の保険業界においても過去最大のM&Aであり、大規模な円の売り切りに対する思惑からドル/円相場も一時押し上げられる時間帯が見られている。
対内・対外直接投資は、当該通貨のアウトライト取引(※)を含むとの期待から、中長期の方向感を規定する材料として注目されやすい。
※売り戻し条件や買い戻し条件をつけずに、買いなら買い、売りなら売りという一方通行の取引のこと
日本から海外への対外直接投資は2011年以降、メガトレンドとも言える勢いで進められてきた(図表①)。反面、この副作用として国内の生産拠点としてのパワーが衰え、貿易収支赤字の定着につながっていったとの分析は多い。
【図表①】