イマイチな対内直接投資がもたらす残念な未来
図表①にも示すように、対外直接投資に比較して対内直接投資の規模はその10%にも及んでおらず、増える兆しも感じられない。
対内直接投資残高は2023年末で約50兆円ゆえ、100兆円まであと50兆円が必要になる。単純計算で今年を含めた7年間で毎年7兆円以上の対内直接投資を引き込む必要がある(それでも毎年の対外直接投資の30%程度の水準でしかない)。
しかし、今年は年初10カ月間で+1.2兆円弱(年率化しても+1.4兆円程度)にとどまっている。
もちろん、実際の残高は年末時点の株や為替の水準も加味した時価評価で決まるため、今年の対内直接投資がフローベースで1.4兆円程度にとどまったとしても、ストック(残高)ベースでの前年比はより大きな増加幅に仕上がっている可能性はある。
とはいえ、そうした価格効果で残高が押し上げられるような展開は、政府目標が企図するところではあるまい。外国資本の流入が日本経済の雇用・賃金環境を直接的に押し上げたり、ひいては研究開発の活発化を通じて技術革新が促されたりする効果が期待されているはずだ。
最終的には輸出数量が押し上げられ、貿易収支が改善に至る展開まで期待されているかもしれない。
しかし、確認した通り、現時点の統計から判断する限り、日本から海外へ出ていくフローと海外から日本へ入ってくるフローではあまりにも勢いが異なる。この差を着実に埋めていくことが円安圧力の解消にもつながることは言うまでもないが、「安い日本」のコストメリットを押すだけではこの状況は恐らく覆らない。
そもそも2011年以降の円相場が基本的には下落傾向であった中、日本から海外への対外直接投資が増え続けてきた経緯を思えば、為替水準と直接投資の間に絶対的な因果関係はないという理解になる。
「安いから」だけではない日本の魅力(地政学的な安全性や教育水準の高さ、治安など)をいかにして政府部門がアピールできるかという点が重要になる。しかし、その際には慢性的に指摘されている人手不足が障壁になるであろうし、日本の一部地域では原発を使わないことによる電力供給の不安定も指摘されているところである。
従前そうであるように、対外直接投資が優勢の展開が続く限り、「海外での収益は上がるけれども、国内の実体経済は薄い」という現在指摘されている構造問題が、さらに悪い方向へ引っ張られることになってしまう。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2024年12月13日時点の分析です
唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。