- 小売り大手のセブン&アイ・ホールディングスがカナダ企業から買収提案を受けていることが明らかになった。買収金額は5兆円以上で、海外企業による日本企業買収では最大級と報じられている。
- 「円安を活かすカード」として政府は対内直接投資の拡大を目論むが、対内直接投資は新規投資(グリーンフィールド)だけでなく、クロスボーダーM&Aも該当する。
- 「対内直接投資100兆円」という目標の達成に向けて、今後、外資系企業による日本企業の買収が相次ぐかもしれない。
(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
円高を誘った2つの材料
8月19日、日本の小売り最大手企業に対し、カナダのコンビニエンスストア大手企業が買収提案を持ちかけたということが大きく報じられた。
◎セブン&アイに買収提案 カナダ同業から(日経新聞)
この報道は日本経済新聞による独自であり、「提案を知る複数の関係者」からの話とされているが、買収提案に関しては当該企業が「法的拘束力のない初期的な買収提案を受けていることは事実」とのコメントを発表している。
実現可否はさておき、提案自体は事実のようだ。本件にかかわる買収金額は実現すれば5兆円以上で、海外企業による日本企業買収としては最大級とも報じられている。
報道後、ドル/円相場では円高が進んでいるが、この報道以前から為替市場では「2023年4月から2024年3月までの米雇用統計が最大100万人下方修正される」との論点が取りざたされており、米連邦準備理事会(FRB)による大幅利下げの観測からドル売りが進んでいた。
そのため、昨日の円高・ドル安は巨額の対内直接投資と米雇用統計の大幅修正が絡み合ったものと整理できる。
もっとも、後者について言えば、同期間の米経済指標は雇用統計以外にもあったわけで、それらが相応に堅調だったのだから、パニックになるほどの話ではないように思える。
現実的に注目すべきは、巨額の対内直接投資のほうだ。
今回の報道は、折しも「円安を活かすカード」として、海外企業による対内直接投資が注目を浴びている最中での出来事でもある。真相は当事者しか分かり得ないが、近年の大幅な円安傾向が事態の背景にある可能性も否めない。
現状、政府・与党は2023年6月に示された「骨太の方針」で、「2030年までに対内直接投資100兆円」という目標を掲げている(次ページ図表①)。2023年末時点の残高が約50兆円であることを思えば、一つの案件の規模が5兆円を超えるということがどれほど大きな話なのか分かるだろう。