総裁選への不出馬を表明した岸田首相(写真:共同通信社)総裁選への不出馬を表明した岸田首相(写真:共同通信社)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

首相の不出馬会見の後、円高になったのはなぜか?

 8月14日、岸田文雄首相(自民党総裁)が首相官邸で記者会見し、9月に予定される総裁選に立候補しない意向を表明した。派閥の政治資金問題などを受けて低迷していた支持率の影響を受け、再選が難しいという決断である。

 各種の世論調査では7~8割が岸田総裁の続投を望まないというメッセージが確認されており、「総裁選に勝てたとしても総選挙には勝てない」という未来が見えていた。今後について現時点で明らかになっている情報は少ないが、足許の簡単な論点整理だけはしておきたい。

 第一報直後の金融市場では円高・株安が進んだが、その後は値を戻している。この値動きは次期総裁ひいては次期首相に対し、どのような思惑が混在しているのかを窺い知るという意味でも非常に興味深いものでもあった。

 本稿執筆時点で出馬を正式表明した候補はいないものの、河野太郎デジタル相、茂木敏充幹事長、高市早苗・経済安全保障相、石破茂元幹事長、上川陽子外相などの名前が挙がっている。

 その上で小泉進次郎・元環境相や小林鷹之・前経済安全保障相といった知名度も高く、支持層も広そうな若手の出馬も争点となる。金融市場では、小泉氏、小林氏、上川氏といった相応に話題性を備えた候補者が出てくるかどうかは注目されやすいだろう。

 為替市場で円高が進んだ背景には、有力候補でもある河野氏や茂木氏が前回の日銀会合直前に利上げを催促するような発言をしたことで注目を浴びた経緯がある。

 7月31日の会合直前、河野氏は「為替は日本にとって問題だ」「円は安過ぎる。価値を戻す必要がある」などと述べた。茂木氏も「段階的な利上げの検討も含めて金融政策を正常化する方針をもっと明確に打ち出す必要がある」と語った経緯がある。これらの発言は金融市場でしっかり材料視されている。

 なお、その後、河野氏は「利上げを直接求めているわけではない」と火消しに走ったが、円安を問題視する姿勢が否定されたわけではない。

 また、茂木氏は+15bpの利上げ決定後、「以前からですね、そろそろ金融政策正常化していくタイミングだ、こういうお話をしてきました。方向としては望ましい方向」と記者団に念押ししている。

 河野・茂木両氏の優勢が伝えられる限り、為替市場は円高・株安で反応することになりそうだ。もっとも、今の日本の政治において円安は「悪」であり、その抑制に意欲を示すこと自体は誰が候補者になっても変わらないだろう。