8月5日、日経平均株価は過去最大の下落幅を記録した(写真:新華社/アフロ)8月5日、日経平均株価は過去最大の下落幅を記録した(写真:新華社/アフロ)

 円安株高の投機の巻き戻しから、8月5日には日経平均が前日比4451円下げるセリングクライマックスに至った東京株式市場。その後はやや回復したものの、積み上がったポジションの整理にはまだ時間を要する。

 他方で、米国の景気や不穏な中東情勢が懸念され、大統領選までは米国の政策は方向が定まらない。大統領選後も消化に時間がかかり、年内は株式市場の動揺は続きそうだ。

 日本銀行はさらなる利上げが難しくなり、再び受け身の状態になる。円安インフレは和らぐが、人手不足による供給制約もあり、日本のスタグフレーション的な状態は続く。(大崎明子:ジャーナリスト)

植田総裁は記者会見の質疑応答が下手

 8月の株価暴落の最大の要因は円安株高投機の巻き戻しであり、日本銀行の利上げはそのトリガーを引いたとはいえる。しかし、植田和男総裁はかねてさほどハト派的だったわけではない。

 筆者はむしろ、4月の「展望レポート」以降、円安インフレの状況次第で日銀は利上げに踏み切り、連続利上げもあるとみていた。市場関係者の間でも利上げ観測は燻り続けていた。

 ただ、植田総裁は記者会見などでの質疑応答が下手であり、利上げに慎重だと見られて、安易に円安に賭けるFX投機が積み上がり、円キャリートレードや円安に連動して上昇する日本株買いの信用取引も膨らんでいた。これが7月31日の金融政策決定会合での利上げによって一気に逆回転した。

 そもそも、7月中旬を境に米国の株式市場がもたつきはじめていたという事情があった。

 第1に米国の景気後退への懸念が急浮上したこと。第2に相場をけん引してきたエヌビディアやGAFAMなどのAI関連企業は市場の期待ほど利益を出せるのかという疑問。第3にイスラエルがイランにいたハマスの最高幹部ハニヤ氏を殺害したことによるイスラエルとイランの軍事衝突への懸念の高まり。

 これらの悪材料に日本株のクラッシュが重なった。暴落の規模だけでなく、複数の要因が重なったという点でもブラックマンデーに似ている。

 FX投機はかなり巻き戻されたが、株の信用取引の巻き戻しにはまだ時間がかかる。直近の公表数字である8月2日時点では東京市場の信用の買い残は4.87兆円もあり(売り残は5587億円と少ない)、整理には時間がかかる。

 8月7日の内田眞一副総裁の「金融市場が不安定な状況で利上げすることはない」との発言から、落ち着いてはいるものの、複数の不安材料とそれがドル円に及ぼす影響を見ながらの一進一退が続く。米国景気指標の悪材料が続くようなことがあれば、株価は二番底のおそれもある。

 もっとも、今回の暴落がリーマンショックのような金融システム危機につながる可能性は小さい。民間債務が積み上がっていないからだ。