実は「途上国と先進国の間」だった日本

 図表②に示されるように、世界の対外直接投資動向を見る限り、先進国ではクロスボーダーM&Aが主流という印象は強い。対照的に、途上国ではグリーンフィールド投資が主流である。

 ところが、日本への対内直接投資について内訳を見ると、グリーンフィールド投資とM&Aの比率が「6割強:4割弱」で、先進国全体の傾向(4割強:6割弱)とは齟齬がある。

 途上国全体の傾向(8割強:2割弱)よりはM&A比率が高いものの、世界全体の傾向(6割弱:4割強)よりそれは低い。さしずめ日本への対内直接投資形態を表現するならば、「途上国と先進国の間」のようなイメージである。

世界の対内直接投資構成
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 なぜ日本の対内直接投資形態がこうした実情になってきたのか。M&Aの意義・効果について理解が進んでいないという側面もあるのかもしれないが、それ以前に「外国資本による買収や再編」についてアレルギー的な反応を抱く経営者が多いという見方は根強い。

 真因を突き止めるのは難しいものの、「先進国の中ではクロスボーダーM&Aが目立って少ない」とい事実は否めず、それが「名目GDP比で見た対内直接投資残高が北朝鮮以下」とも揶揄される惨状につながっている面はある。

「2030年までに100兆円」という決して低くはない政府目標を実現するには、これまでとは異なるアプローチが求められてくるのは間違いない。上述の議論を踏まえれば、「グリーンフィールド投資だけではなくクロスボーダーM&Aの活用も」という視点は求められてくるはずである。

 だが、政府の対日直接投資推進会議が2023年4月26日に公表した23ページにも及ぶ「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン」には、M&Aというフレーズは2回しか出てこない。

 それも「対日M&Aおよび外国企業との協業事例における経営改善・改革に関する効果を分析し、その結果の普及等を行う」や「海外企業との協業・連携、対日M&Aの活用に不慣れな地域企業に対して、普及啓発や士業等専門家による助言、メンタリング支援など、国内での協業・連携支援を強化する」といった漠然とした記述に登場するだけで、具体的な政策対応は良く分からない。