原油価格は60ドル台に(写真:B-th/Shutterstock)
  • 原油価格が1つの節目である1バレル=70ドルを下回っている。
  • 主要消費国で景気の先行きへの警戒感が高まっているうえに、懸念されていたリビア情勢が国連の仲介により沈静化したほか、カナダ産原油の輸出拡大が見込まれている。
  • ハマスとイスラエルの停戦交渉の行方など地政学リスクには市場はあまり反応しなくなっており、価格下落圧力は今後も強まりそうだ。

(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)は今週半ばから1バレル=70ドル割れで取引されている。一時、68ドル後半に下落し、昨年12月以来約9カ月ぶりの安値を付けた。供給途絶の懸念が後退する中、主要消費国の景気の先行きへの警戒感が高まっている。

 まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。

 ブルームバーグによれば、石油輸出国機構(OPEC)の8月の原油生産量は前月比7万バレル減の日量2706万バレルだった。リビアの生産量が前月に比べて日量15万バレル減ったことが主な要因だ。クウェートやナイジェリアの生産増やイラクの生産枠の超過状態を打ち消した形だ。

 市場の関心を集めていたリビア情勢について劇的な変化が見られた。

 中央銀行総裁を巡る東西両勢力の対立のせいで「リビアの原油生産量は日量100万バレル(世界の供給量の1%に相当)減少する」と懸念されていたが、3日に行われた国連の仲介により「新たな中銀総裁を30日以内に選出する」との合意が得られ、事態が沈静化した。これを受けて「リビアからタンカーによる輸出再開の動きがある」との観測も広がり、原油価格は急落した。

 OPECの価格下支えの取り組みに水を差す存在も出現している。米国、サウジアラビア、ロシアに次ぐ世界第4位の産油国となったカナダのことだ。