- ウクライナ軍のロシア西部クリスク州への越境攻撃が波紋を呼んでいる。米政府は事前に知らされていなかったとし、西側諸国はウクライナの「暴走」に懸念を強めている。
- そうしたなか、ドイツ当局が2022年のロシアから欧州への天然ガス海底パイプライン「ノルドストリーム」破壊事件の容疑者としてウクライナ人に逮捕状を出した。
- ドイツはロシアからの天然ガスに依存しておりウクライナとの関係悪化は避けられず、ドイツは軍事支援を半減させるとの報道もある。西側諸国がドイツに続く可能性も否定できない。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
ウクライナ情勢に再び世界の注目が集まっている。ウクライナ軍が8月6日からロシア西部クルスク州への越境攻撃を開始したからだ。
ゼレンスキー大統領は8月19日、「ウクライナ軍は92の集落を掌握し、1250km2の地域を制圧した」ことを明らかにし、「目標を達成している」と胸を張った。
ウクライナ軍はクルスク州を西に流れる川の主要な橋をすべて破壊し、支配地域を2倍に拡大する布石を打っているとも言われている。
不意を突かれた形のロシア軍は防衛体制の強化に追われている。だが、掃討に必要な兵員が確保することができず、ウクライナ軍の越境攻撃は長期化する可能性が高まっている。
ロシアの通貨ルーブルが対ドルで10カ月ぶりの安値を付けるなど、国民の不安も高まっており、プーチン大統領の面子は丸つぶれだ。
ロシア側の動揺を奇貨として、ゼレンスキー氏は「ウクライナ軍の越境攻撃でロシア側の報復がはったりであることが示された」と主張。ロシアにとってのレッドライン(越えてはならない一線)をウクライナが破ることを警戒する西側諸国に対し、ウクライナに供給した兵器の使用制限を緩和するよう訴えかけている。
ゼレンスキー氏は西側諸国からのさらなる軍事支援を期待しているが、足元でこれに反する動きが出てきている。