- 原油価格に下げ圧力が一段と強まっている。米国のドライブシーズンが近々終わり、中国の原油需要も一段と弱い。
- ウクライナがロシアに対して越境攻撃を仕掛けているが、市場は地政学リスクにあまり反応しなくなっている。
- 価格下落を受けてOPECプラスが10月以降の増産計画を撤回すれば、一部の加盟国が抜け駆けで増産に踏み切り中東産油国の結束が大きく乱れることにもなりかねない。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=71ドルから74ドルの間で推移している。先週に比べて価格のレンジが5ドルほど値下がりしている。需要への懸念が強まる一方、産油国を巡る地政学リスクへの関心が低下しているからだ。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
今週、最も相場を動かしたのは米国の雇用統計だった。米労働省は8月21日「今年3月時点の雇用者数は81万8000人程度の下方修正になる可能性が高い」との推定値を明らかにすると「減速感が出ている米国の労働市場の実態がさらに悪い」との懸念から、原油価格は一時、1バレル=71.46ドルと2月上旬以来の安値を付けた。
米国のガソリン小売価格も19日時点で1ガロン=3.3ドル台後半と3週連続で下落している。ガソリンの需要期であるドライブシーズンは9月上旬までだと言われており、米国の原油需要は冬場にかけて軟調になることが予想されている。
悪材料が相次ぐ中、「米連邦準備理事会(FRB)が9月に利下げを行う」との期待が唯一の「買い」材料だと言っても過言ではない。
米国以上に注目されている中国の原油需要も芳しくない。
中国政府が15日に発表したデータによれば、国内製油所の7月の原油処理量は前年比6.1%減の日量1391万バレルと4カ月連続のマイナスとなった。燃料需要の低迷などが災いして2022年10月以来の低水準となっている。1~7月の処理量も前年比1.2%減の日量1437万バレルだった。
不況の元凶である不動産市場が悪化の一途を辿っており、下半期の原油需要がさらに減少することは確実だと思う。
中国の低迷とは対照的にインドの原油需要は堅調だ。
22日付ロイターによれば、インドの7月のロシア産原油輸入量は前年比12%増の日量207万ドルとなり、中国(日量176万バレル)を抜いた。世界最大のロシア産原油輸入国となったインドの製油所関係者は「西側諸国の制裁がこれ以上強化されない限り、ロシア産原油の需要は増加する」としている。
だが、中国などの需要減を補えるほどインドの原油需要(日量約500万バレル)は大きくない。
次に供給面を見てみると、米国の原油生産量は日量1340万バレルと過去最高水準にある。油井当たりの生産量が上昇しており、世界1位の座は当分の間、揺るがないだろう。