- リビアの原油生産量の大幅な減少が原油価格を一時的に上昇させたが、その後はジリジリと下落傾向が続いている。
- 米連邦準備理事会(FRB)の9月利下げが濃厚になり、中東リスクは依然としてくすぶっている。いずれも本来は原油価格の上昇圧力になるはずだが、市場は弱気ムードだ。
- 背景には、これまで原油価格を引き上げてきた中国の原油需要がこの先、高まる見込みがないとの懸念が強まっていることがある。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
8月30日の米WTI原油先物価格(原油価格)は1バレル=73.55ドルで取引を終えた。26日に1バレル=77.42ドルと約2週間ぶりの高値を付けたが、その後、じり安の展開となっている。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
最も相場を動かしたのはリビアの原油生産量の大幅減少だった。
リビアは石油輸出国機構(OPEC)加盟国であり、アフリカではナイジェリアと並ぶ大産油国として知られている。
7月に日量118万バレルだったリビアの原油生産量は、29日時点で48万バレルと半分以下に減少した。「今後の減産幅は日量100万バレル以上になる」との見方が出ている。
リビアは対立する東部と西部に政府が2つに分かれ分裂状態にある。原油生産量が大幅に減少したのは、油田地帯を管轄している東部政府が原油生産を強制的に停止する措置を講じたからだ。
東部政府がこのような措置に踏み切った背景には対立する西部政府の動きがある。東部政府と親しい関係にあるアルカビル中央銀行総裁を西部政府が強引に交代させようとしたことが関係している。
中央銀行は原油輸出収入を管理する極めて重要な政府組織だ。「そのトップに西部政府の息がかかった人物が就任すれば、貴重な活動資金を奪われてしまう」と東部政府は危機感を抱き、強硬手段に打って出たというわけだ。
リビアは2011年にカダフィ大佐の長期独裁政権が崩壊後、東西に分裂して内戦が発生した。2020年に停戦合意が成立したものの、分断状態は今も続いている。
リビアでは政治的な対立のせいでこれまで何度も原油生産が停止している。数日で終わるケースもあったが、2020年のように8カ月にわたってほぼ全ての原油生産が止まったこともある。今回の場合、原油生産の停止が長期化するかどうかは不明だ。