「中国の原油需要がピークを迎える」

 ウォール街の金融機関は原油価格の見通しを1バレル=80ドルを下回る水準に下方修正し始めている*1。OPECプラスを含め、世界の原油供給が拡大するというのがその理由だが、筆者は「世界の原油需要への懸念が影響している」と考えている。

*1ウォール街の原油予想、来年は80ドル未満-OPECプラス供給拡大で(8月27日付ブルームバーグ)

 パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が23日の講演で9月の利下げを強く示唆したことで「原油への投資の妙味が高まった」との観測が生まれた。だが、その後はむしろ「FRBの利下げの遅れが米国の景気悪化を招く」との懸念が高まっている。

 中国の原油需要への懸念も強まるばかりだ。「中国の原油需要がピークを迎える」との予測が現実味を増している*2

*2Is China's Demand for Oil Nearing Its Peak?(8月24日付OILPRICE)

 21世紀に入り、中国の原油需要は日量1000万バレルも増加した。中国が世界の原油需要を牽引したことで21世紀の原油価格(平均)は1バレル=70ドルにまで上昇した。この水準は20世紀末に比べると40ドルも高い。

 このことからわかるのは、これまで一本調子で伸びてきた中国の原油需要が減少に転じる事態となれば、原油価格に猛烈な下押し圧力がかかるということだ。

 このため、中東地域の緊張状態が続いていても、産油国の石油関連施設が打撃を被らない限り、原油価格が高騰する可能性は極めて低くなったと考えられる。

 原油消費国である日本にとっては望ましいことだが、原油価格の急落は産油国の財政が悪化し、政情不安を招くリスクをはらんでいる。

 転換期を迎えつつある原油市場の今後の動向をこれまで以上の関心を持って注視していくべきではないだろうか。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。