ハマスとの紛争をやめられないイスラエルのネタニヤフ首相(写真:AP/アフロ)

ハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏を殺害してからも、イスラエルによるガザへの執拗な攻撃が続いている。昨年10月の奇襲攻撃の首謀者を殺害してもなお、イスラエルが紛争を終わらせないのはなぜか。そこには、ネタニヤフ首相による自身の汚職疑惑を回避しようという狙いのほか、米大統領選でトランプ氏を勝たせたいという思惑があるようだ。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 激しい戦闘の続くパレスチナ・ガザ地区北部では、今もイスラエル軍の攻撃による死者が増え続けている。アルジャジーラが10月21日に公開した現地の映像からは、イスラエル軍によって強制的退去させられた数千にも及ぶというガザ市民の姿が確認できる。子供を抱いた女性はアルジャジーラの取材に応え、イスラエル軍による爆撃や銃撃が絶え間なく続き「情け容赦などなかった」と話した*1

*1Israel’s siege on north Gaza intensifies as thousands trapped(ALJAZEERA)

 ガザ地区の保険当局は、10月19日の空爆で少なくとも87人が死亡したと発表した。当初、死者の数は73人とされていたが、この数字についてすでにイスラエル国防軍(IDF)は「誇張されたもの」と否定していた。

イスラエル軍が公開したシンワル氏の最後の姿とされる映像(提供:Israel Defense Forces/ロイター/アフロ)

 その2日前の17日、イスラエル軍はハマス最高指導者だったヤヒヤ・シンワル氏の殺害を発表した。シンワル氏は昨年10月、ハマスのイスラエルに対する大規模な越境攻撃の首謀者としてIDFから追跡されていた。ハマスによる襲撃によって1200人以上もの人たちが殺害され、250以上の人質が連れ去られた。現在も、101人の人たちが安否不明とされている。

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 シンワル氏殺害を受け、米バイデン大統領は同日の声明で「イスラエルにはハマス指導部と軍事組織を排除する当然の権利があった」とした。バイデン氏は人質解放と、これを限りにこの戦闘を終わらせるための道筋について、イスラエルのネタニヤフ首相と対話すると述べた。

 X上で、シンワル氏の殺害を宣言したネタニヤフ首相は「これはガザにおける戦争の終わりではないが、終わりの始まりだ」とした。また、ガザ地区の人々へ「単純なメッセージ」だとして、ハマスが武器を置き、人質を解放すれば「この戦争は明日にも終わる」と発言した。

 しかし前述の通り、イスラエル軍による攻撃は依然として続き、多数の民間人を含むパレスチナ人の生命が奪われたり、危険に晒され続けたりしている。ネタニヤフ首相がこの発言の際、本気で一両日中にガザでの戦闘を終わらせようと考えていたとは、にわかに信じがたい。