(文:春名幹男)
バイデン政権はイスラエルに対し、ラファ侵攻を思いとどまらせるためにハマス幹部の居所に関する機微なインテリジェンスの支援を提案した。イスラエルの情報機関モサドは、少数の要人暗殺で多数の犠牲者が出る戦争を回避できると考えてきた経緯がある。一方、ネタニヤフ首相は暗殺に消極的で、モサドとはむしろ対立関係にあったという。冷戦期から緊密に協力してきた米CIAとモサドは、ネタニヤフ首相に暗殺カードを切らせるか。
エジプト国境に近いラファ。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がこの戦略的要衝を全面攻撃して、決着を付けるのは容易ではない。この戦略に反対するのは、米国のジョー・バイデン米政権だけではない。自国の軍隊さえ消極的で、国際司法裁判所(ICJ)はラファ軍事攻撃の「即時停止」を求めている。
ICJが挙げるのは人道的理由だ。だが、米国や自国内の反対派は、戦後の計画を立案しないまま「ハマス制圧」を進めれば、混乱の深刻化を招くだけだと警告。バイデン政権はサウジアラビアなどアラブ穏健派諸国とガザの戦後体制構築に向けて協議を重ねている。
では今後、どのような戦闘計画を進めるべきか。バイデン政権は「ハマス指導者の現在の居所をピンポイントで確認する機微なインテリジェンス」を提供する支援を提案している(『ワシントン・ポスト』)というのだ。
イスラエルは「戦後の西側世界で最も多くの暗殺を実行した」標的暗殺(targeted assassination)の強国だが、実は、ネタニヤフ首相はこれまでも暗殺に消極的で、対外情報機関モサドと対立してきた歴史がある。今後、ハマス指導者を標的にした暗殺カードを切ることになるだろうか。
ハマス4個大隊は民衆に紛れ込む
昨年10月7日にハマスがイスラエルを急襲、約1200人を殺害したのに対して、イスラエルは約8カ月間にわたりガザ全域を報復攻撃し続けた。その戦いぶりはまるで無差別攻撃で、さまざまな施設の70%もが破壊されたという。
ガザ側の死者は3万5000人を超え、そのうち戦闘員は推定1万3000人。犠牲者の3分の2近くが子供・女性を含む市民だ。
イスラエル軍側の死者は約260人、ガザ内で拘束されているイスラエル人の人質は約120人(『BBC放送』)と言われる。
ハマス側の戦闘員はラファの4個大隊(約2000人)に加えて、ガザ北部に4000~5000人が残存しているという。
イスラエル軍がラファへの全面攻撃を開始した場合、装備が劣る4個大隊は恐らく、正面衝突を避け、民衆の中に紛れ込んで、ゲリラ戦を展開する可能性が大きいとみられる。
このためイスラエル軍は、ラファでの戦闘でさらに多くの罪のない一般市民の死傷者を出す可能性があると懸念されているのだ。
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