ハマス幹部でガザ地区トップのシンワル氏(写真:AP/アフロ)
  • イスラム組織ハマスのガザ地区トップ・シンワル氏の「冷徹な素顔」が、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道をきっかけに米メディアによりこぞって報じられている。
  • 「イスラエル消滅」という目的達成のために大勢の子供の犠牲すらいとわない残忍さが際立つ内容だ。
  • 国連は6月13日、「子供と武力紛争」の年次報告書でイスラエルとハマスなどによる重大な権利侵害を指摘。イスラエルの過剰な報復は続いており、憎悪の連鎖がシンワル氏のような残忍な思想を将来にわたって再生産してしまう懸念もある。(JBpress)

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 国連は6月13日、「子供と武力紛争」に関する年次報告書において、昨年はイスラエルとパレスチナ自治区で子供に対する「前例のない規模と激しさを伴う」重大な権利侵害が行われたと発表した*1

*1Children and armed conflict(United Nations, General Assembly Security Council)

 報告書に記載されているのは、あくまで国連が確認できた事例のみだ。これによると、イスラエルとパレスチナ自治区・ガザとヨルダン川西岸において、8009件の重大な権利侵害が4360人の子供に対して確認された。このうち被害にあったのはパレスチナで4247人、イスラエルでは113人の子供たちだ。

 報告書によると、ハマスがイスラエルを急襲した昨年10月7日から12月末までに、ガザ地区で殺害が確認されたパレスチナ人の子供は2051人。原因については調査中としながらも、ほとんどの場合、イスラエル軍および治安部隊が、人口密集地において爆発物を使用したことに起因すると指摘した。

 なお、特にガザ地区における調査は困難を極め、報告書にまとめられた情報は、子供に対する権利侵害の全てを表すものではないとも記されている。

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 英ガーディアン紙は5月末、激しい戦闘にさらされたガザ地区南部のラファで、怪我人の治療にあたった国際医師団の証言を詳報している。ある女性医師は、イスラエル軍の爆破攻撃により全身の75%に火傷を負った4歳の男の子、マフムードくんの治療を試みた。痛みで泣き叫ぶマフムードくんを診察すると膵臓と肺が潰れており、医療用具も足りず、手の施しようがなかった。

「彼は私たちの目の前で亡くなりました。寒さと痛みの中、彼を知るものが誰も看取ってあげることもできませんでした。まだ4歳の彼を、助けてあげたかった」と医師は語っている。

 別の医師は、すでに息絶えた子供を蘇生してくれと懇願する親たちが、結局は小さな遺体の一部を段ボールに入れて連れ帰るしかない様子を証言している。「私たちがここで目撃したものを正当化するものなど、一切存在しない」と憤った。

 何ら罪のないガザの子供たちに、空爆や銃撃などの攻撃により、絶え難い苦痛と死を直接的に強いているのは、イスラエルのネタニヤフ首相が「世界で最も道徳的」と豪語するイスラエル国防軍だ。しかし、その犠牲を自らの野心のため利用していると報じられているパレスチナ人もいる。ハマスのガザ地区トップ指導者、ヤヒヤ・シンワル氏である。