ロシア「ノルドストリームの爆破は米国が命じた」

 ウクライナ政府も当然のことながらこの報道を否定している。名指しされたザルジニー氏(現・駐英大使)も「このような作戦は知らない」との回答だ。

 ロシアのラブロフ外相は19日、「ノルドストリームの爆破は米国が命じたものだ」と述べた。筆者もこの可能性が高いと見ている。つまり、「越境攻撃を事前に知らされなかったことに腹を立てた西側諸国が、ウクライナに『濡れ衣』を着せようとしているのではないか」ということだ。

 ウクライナ軍がロシアの天然ガス輸出拠点を制圧したため、欧州の天然ガス価格は年初来高値となった。エネルギー価格の高騰に悩む欧州諸国にとって大きな痛手だ。

 ウクライナとロシアは今月、カタールで部分的な停戦について交渉する予定だったが、越境攻撃のせいでご破算になってしまった。ロシア側は「ウクライナ軍が自国領内から徹底させない限り和平交渉には一切応じない」との構えだ。

 ゼレンスキー氏は「越境攻撃の目的は緩衝地帯の設置だ」としているが、ロシアへの長距離ミサイルを用いた攻撃の許可を西側諸国から得るのが本当の狙いだろう。ウクライナ軍の越境攻撃が長期化すれば、北大西洋条約機構(NATO)とロシアの直接対決のリスクが高まるばかりだ。

 ウクライナのさらなる暴走を防ぐため、西側諸国が「ドイツにならえ」とばかりに軍事支援を減らす決断をする可能性が排除できなくなっている。「過ぎたるは及ばざるがごとし」ではないが、西側諸国の懸念を無視して越境攻撃を続けるウクライナは、今後手痛いしっぺ返しに遭ってしまうのではないだろうか。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。