- 米国の利上げ局面で日本円を始め多くの通貨が売られる中、メキシコペソは例外的に買われた通貨の一つだった。
- ところが、6月に実施された大統領選と総選挙の後、メキシコペソは大きく下落している。
- その背景にあるのは、中央銀行の独立性に対する市場の不安と、現実の迷走だ。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
米国の利上げ局面で日本円を含む多くの通貨が売られた中で、メキシコペソは例外的に買われた通貨の一つだった。
メキシコペソは、2022年の間は1米ドル=20ペソ前後で推移していたが、2023年に入ると16ペソ台まで急騰。9月に政府と中銀による為替安定措置(ヘッジプログラム)が終了し、相場は下落したが、直ぐに持ち直した。
【図表1 メキシコペソの対ドル相場】
しかし2024年6月に入ると、ペソ相場は1米ドル=18ペソを割り込むまで急落。その後はわずかに反発したが、結局19ペソ台を割り込んだ。
ではなぜ、米国の利上げ局面でも買われた通貨であったペソは急落してしまったのか。理由は大きく分けて二つあるが、うち一つは、中銀の独立性が弱まることへの懸念が高まったことにある。
2024年6月2日、メキシコで大統領選と総選挙が同時に行われた。その結果、与党の左派政党である国家再生運動(MORENA)に所属するクラウディア・シェインバウム前メキシコ市長が大統領に就任すると同時に、MORENAが率いる与党連合が上下両院でそれぞれ議席の3分の2を上回る圧勝を収めた。これに市場が反応したのだ。
シェインバウム新大統領は左派志向が強いアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール前大統領(通称:AMRO前大統領)の正統な後継者だ。そのAMRO前大統領は、独立性が保証されている中銀に対して圧力をかけ続けた。中銀はそれを跳ねのけてきたが、MORENAが国政選挙で圧勝したため、投資家は中銀の独立性が侵害されると考えた。
その結果、国政選挙の翌日の6月3日のメキシコの金融市場は大荒れとなり、通貨のみならず株式と債券も価格が暴落し、いわゆるトリプル安に見舞われた。