実際に迷走し始めた中銀の政策運営

 第二の理由が、実際にメキシコ中銀の政策運営が迷走し始めたことだ。

 中銀は3±1%の物価目標を定めており、実際にその実現のために金融政策運営に注力してきた。2021年からの高インフレ局面でも、政策金利を積極的に引き上げてきた。その結果、2023年末には消費者物価の伸びが物価目標の近くまで低下することになった。

 メキシコ中銀は2024年3月の会合で、政策金利を0.25%引き下げ、年11%とした(図表2)。米連銀(FRB)も年内に利下げすることへの期待が高まっていたことのほか、ディスインフレが進展していたことから、利下げにもかかわらずにペソは売られず、相場は堅調を維持したが、その後、インフレは再加速することになった。

【図表2 メキシコの金利と物価】

(注)中銀の物価目標は3%±1% (出所)メキシコ統計局、同中銀

 インフレの再加速は、天候要因(渇水)による食品価格の高騰の影響を大きく受けている。しかしメキシコ中銀の物価目標は、いわゆる総合指数ベースで判断されるため、消費者物価が物価目標を上回っている以上、金利を据え置くことが望ましい。にもかかわらず、中銀は8月8日の定例会合で0.25%ポイントの追加利下げを行った。

 中銀の政策委員5人のうち3人が追加利下げを支持し、2人は金利据え置きを主張した。不可思議なのは、今年の消費者物価見通しを4.0%上昇から4.4%上昇に引き上げたにもかかわらず、中銀が利下げを先行したことだ。物価目標を導入している中銀が、先行きのインフレ加速を見込んでいる中で利下げを行うということは、通常ありえない。