外資系企業によるM&Aは対内直接投資の増加につながる

日本の対内直接投資残高
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 しばしば話題となる半導体工場のように、製造業が日本に工場を作り、労働者を雇い、生産活動を軌道に乗せるという意思決定では、日本の人手不足は制約条件としてどうしても障害になる。

 しかし、「直接投資=工場を作る」ではない。今回のように、外資系企業からの買収を受け入れるケースでも対内直接投資残高は積み上がる。他でもない日本企業が2011年頃から世界に向けてやってきたことだ。

 対内直接投資の残高(が小さいこと)に関しては近年、注目が集まっているものの、その実施形態に着目した議論は少ない。もちろん、議論に値するほどの残高がなかったという考え方もあるが、それにしても実施形態には偏りがある。

 対内直接投資の実施形態には、企業が海外直接投資を行う際、新たに投資先国で企業を設立するか、投資先国の既存企業を買収するかという2つの形態がある。前者は新規投資(グリーンフィールド投資)、後者はクロスボーダーM&Aと呼ばれ、今回のような案件に相当する。

 クロスボーダーM&Aはグリーンフィールド投資に対してブラウンフィールド投資と呼ばれることもある。

 グリーンフィールド投資の場合、土地取得や現地労働者の雇用に加え、部材調達や販売網の開拓など、事業立ち上げに伴うコストが大きくなることで知られる。片や、クロスボーダーM&Aではこうした時間的・金銭的コストは大幅に軽減される。

 外資系企業が日本に進出するにあたって、労働力と英語力という「2つの不足」が「壁」になりやすいと言われるが、最初から労働者が揃っている日本企業を買収した場合、英語力はともかく人手不足や販路開拓の問題は回避できるメリットもありそうだ。英語力に関しても、それを含めた上での買収先検討という線はある。

 しかし、日本への対内直接投資はクロスボーダーM&Aが少ないことで知られる。裏を返せば、そこが伸びてくれば、上述したような「2つの不足」に対して有効なアプローチになる可能性は十分考えられ、政府目標にとっても重要な論点となる。