2月13日、相互関税の検討を指示する大統領令に署名したトランプ米大統領(写真:UPI/アフロ)

米トランプ政権は3月4日、カナダとメキシコからの輸入品に対し25%の追加関税を発動した。10%の追加関税を発動済みの中国製品については税率を20%に引き上げた。関税という切り札を使い、中国などとの駆け引き(ディール)で米国に有利な条件を引き出そうと考えている節もあるが、すでにトランプ氏の言動に反応していた金属などのコモディティー(商品)市場は、新型コロナウイルス禍、ウクライナ危機に続く混乱の渦に巻き込まれた。

(志田 富雄:経済コラムニスト)

米国に吸い寄せられるように集まった金地金

 米大統領選でトランプ氏の復活が決まった昨年11月。金現物取引の中核市場であるロンドンや大手精錬所のあるスイスから米国のシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループの指定倉庫へと地金の大移動が始まった。金先物を上場するニューヨーク商品取引所(COMEX)はCMEの傘下にあり、現物の受け渡し決済に使う地金は指定倉庫に認証在庫として保管される。

 少し専門的な話になるが、原油や金の先物取引では期日までに買い戻したり、売り戻したりして売買損益を決済するだけでなく、取引期日に現物の原油や金を渡して決済することができる。

 これは商品取引所特有の現物による決済だが、時折、市場に波乱を呼ぶ。

 新型コロナウイルス禍で石油需要が激減した2020年春にCMEの米原油先物が初めて「マイナス価格」で取引されたのも、ウクライナ危機を受けた高騰局面でロンドン金属取引所(LME)がニッケル取引の停止に追い込まれたのも現物の存在が大きく影響した。

 金市場では20年にコロナ禍で金地金を輸送する航空便がストップ。受け渡しに使う地金が不足し、CMEの先物価格が高騰した経緯がある。

 今回はトランプ氏の掲げる関税政策が米国の輸入コストを増し、CMEの取引価格がその分だけ上げるとの思惑が働いた。ロンドンやスイスからの金地金輸入に関税がかかるかどうかは現時点でも不明だ。しかし、多くの市場参加者が「上がる」と考えれば、先物価格は上がる。

 日本貴金属マーケット協会(JBMA=Japan Bullion Market Association、東京・中央)の池水雄一代表理事によれば、CMEの金先物価格(中心限月)は今年1月に入ると、ロンドン市場での受け渡しを条件にした現物スポット価格に比べ1トロイオンス(貴金属特有の取引単位=約31.1グラム)あたり50ドル近く高くなった。

 通常であれば米国までの輸送費や決済期日までの金利などを加味して2ドル程度の差にすぎないものが、50ドル近くになったのだ。当然、急上昇したCME相場に吸い寄せられるように世界から金地金が集まった。