石油産業、米国とカナダは相互依存関係にあるが…
米国で生産が急増したシェールオイルは米先物の標準油種であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)と同じ軽質油種と呼ばれるもの。ガソリンや石油化学原料のナフサを多く精製でき、高い価格で取引される。
ところが、米国の精製設備はこれまで輸入してきた中東やメキシコ産の中重質原油に合わせたものが多い。処理する油種の変更は「操作盤のボタンひとつで」という簡単なものではない。多額の改修費用がかかる場合もある。
米エネルギー情報局(EIA)の統計によると、米国がカナダから輸入する原油は2000年の日量約181万バレルから23年には444万バレルと2.5倍に増えた。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の高木路子氏は今年1月に公表したリポートで「オイルサンド(石油成分を含む砂岩)由来のカナダ産原油は(重質なため)比較的安価に、しかもまとまった量を安定して調達でき、製油所は経済的なメリットを享受している」と指摘した。
つまり、米国の製油所はカナダから安く調達する原油を処理し、精製マージンを高めることができた。そうして精製した石油製品の一部はメキシコやカナダに輸出しており、相互依存関係にある。

カナダからは原油や石油製品だけでなく、天然ガスや電力も輸入している。米国はカナダからの原油輸入を増やす過程で、サウジアラビアやベネズエラからの輸入を減らすことができた。
米国にはカナダ企業が運営する製油所もある。税率を軽減したとはいえ、トランプ政権の政策は隣国との友好関係を毀損する。米国の関税発動は商品市場を攪乱し世界経済の先行きを不透明にするばかりでなく、米国自身のエネルギー安全保障を脅かすことになりかねない。