高度成長期マインドがアベノミクスの邪魔をした

 今後求められるのは、そうしたアンバランスを是正し、躍動する経済活動を取り戻すことだ。

 1980年代の終わりに、先進国経済に追い付いた日本は、その追い付きのために最適化された様々なメカニズムを、イノベーションのためのものに組み直さなければならなかった。高度成長期のマインドでそれを実現しようと必死に頑張ったのが平成の時代であり、アベノミクスの実践は結局その最後を飾るものだったように思えてならない。

 令和の今、アベノミクスの当初の考えを思い起こし、イノベーションを生む元気な日本経済にするため、諸政策のバランスを取り戻さないといけない。選挙戦たけなわの中で、票を集めるための、なり振り構わない議論も聞かれるが、これからの日本経済にどのような政策が必要なのか、ここであらためてよく考えたい。

神津 多可思(こうづ・たかし)公益社団法人日本証券アナリスト協会専務理事。1980年東京大学経済学部卒、同年日本銀行入行。金融調節課長、国会渉外課長、経済調査課長、政策委員会室審議役、金融機構局審議役等を経て、2010年リコー経済社会研究所主席研究員。リコー経済社会研究所所長を経て、21年より現職。主な著書に『「デフレ論」の誤謬 なぜマイルドなデフレから脱却できなかったのか』『日本経済 成長志向の誤謬』(いずれも日本経済新聞出版)がある。埼玉大学博士(経済学)。

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