ビジネスの「手仕舞い」に躊躇してはいけない

 しかし、現在のようにインフレ率が2%を超え、労働市場がほぼ完全雇用状態であり、さらに今後、人手不足が展望されているような状況で、マクロ的な需要刺激のための財政出動は不要だ。

 経済構造を大きく変えようとするときの状況判断において、マクロでみた資本の稼働率の有効性は低下する。長期的に持続できないビジネスに関連する稼働率も入ってくるからだ。

 グローバル化、高齢化・人口減少、デジタル化。そうした環境変化の中で、これからやっていけないビジネスは手仕舞わなくてはならない。それこそが経済構造改革である。

 そうした古いビジネスの手仕舞いのショックを和らげ、さらに新しいビジネスの立ち上げを円滑にするための財政支出こそが大事だ。リスキリング、労働市場改革等の面で、財政がすべきことはたくさんある。

 そして、当面の財政赤字は、制御が大事であり、直ちに大規模な財政削減をしなくてはいけないということでもない。逆に、現在の経済構造を延命する需要刺激の財政支出は、第3の柱からすれば控えられるべきだ。

 また欧米諸国は、財政支出によって次世代産業を育成する方向に舵を切っている。そうした国際環境を生き抜くためにも、分野を選んだ財政支出が求められる。最初に規模ありきで総花的な財政支出を行う余地は、現在の赤字の大きさからして全くない。

 以上のように、アベノミクスの当初の発想は日本経済が置かれた環境にフィットした正しいものであったと考えられる。しかし、その実践において大きな歪みが生じたほか、政策評価の面で誤ったバイアスも形成された。