17年ぶり0.5%への追加利上げを決定し、記者会見する植田和男・日本銀行総裁(写真:ロイター/アフロ)

米国でトランプ政権が正式に発足し、日本銀行は1月の金融政策決定会合で、政策金利を0.5%に引き上げた。しかし、日本の実質金利は依然としてマイナス圏にとどまる。大きく環境が変化する中、日本経済には何が求められるのか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)

(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)

トランプ大統領が変える国際秩序

 米国でトランプ大統領が就任し、世界の景色も大きく変わろうとしている。トランプ大統領の最大の特徴の1つは次の行動が読めないところだというが、それでも安全保障の面では状況が大きく変わりそうだ。日本経済にとって受け入れざるを得ない前提条件も変わる。そうした中で、ようやく政策金利が0.5%まで上がってきた。日本経済はどう振る舞えば良いのだろうか。

 トランプ大統領は、米国が儲かるか儲からないかを重視するディール外交を展開すると言われている。「米国を今一度偉大にする」と言っているのだから、それも当然なのだろう。

 また、米国が海外で戦闘に関与することも嫌っているとされる。そうであるから、関税などの経済的な手段で相手国にプレッシャーをかけ安全保障の問題までも解決しようとするのだろう。原油価格の引き下げによってロシアを不利な立場に追いやり、ウクライナ問題を解決しようとしているのはその例だ。

 そうしたアプローチで、東欧、中東の戦火は、とりあえずは収まりそうな気配だ。ロシアのウクライナ侵攻が始まった時の重苦しい雰囲気を思い出せば、それはそれで世界経済にとっても朗報だろう。

 翻って東アジアではどうか。韓国では政治が不安定化しており、バイデン政権が作ったオーストラリア、英国を引き入れた対中国・北朝鮮の抑止力枠組みに綻びが生じている。そして、米中の間では、関税を梃子(てこ)にしたディールのゲームが展開されようとしている。

 中国がどう応じるかは分からない。他方、中国は国のあり方について、自身の考えを決して変えないことを明確にしている。また、中国経済が成熟化の過程にあり、再びかつてのような高成長に戻らないこともはっきりしてきた。

就任式で宣誓するトランプ大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 それでも、為替レートにもよるが、約18兆ドルという規模の中国経済が5%程度で成長しているのである。グローバル企業が、この国の市場を無視すると考えるのは現実的ではない。かたや日本経済の規模は4兆ドル強であり、しかもせいぜい1%の成長しかしていない。

 このように、中国は完全な友人にはならないが、商売相手としては無視できないという空気が先進国の間で次第に強くなっていくだろう。その中で、軍事的な衝突で米兵の血を流したくない米国と、損得勘定をする中国の間でディールが成立することも、ないとはいえない。そういう可能性も念頭に置いて、日本はその安全保障を考えていくことになる。