自由な交易の確保は日本経済にとって死活問題

 しかも、トランプ大統領はグリーンランドやパナマ運河に関して、自国に利害を前面に出し圧力をかけている。さらに、貿易赤字を理由に、カナダは米国の51番目の州になるべきだとも発言している。ディールのための脅し(ブラフ)だと言われているが、米国自身が国力による国境の変更を是としていると受け止められても仕方がない。

 こうしたことも考え合わせると、米国の貿易赤字解消のためにある種のディールを中国が飲み、米中関係が安定した暁には、台湾についての中国の主張に米国が沈黙してしまう可能性は否定できない気がしてくる。

 専門家の間では、中国が破壊的な武力行使なしに台湾を香港化していくシナリオもあり得るようだ。もし現実となった時でも、日本はシーレーンの安全は確保しなくてはならない。自由な交易の確保は日本経済にとって死活問題だ。

 資源エネルギー庁のホームページをみると、日本のエネルギー自給率は2021年度で13.3%であり、経済協力開発機構(OECD)38カ国中、下から2番目の37位の低さとなっている。また、農水省のホームページをみると、日本の食料自給率は2023年度、カロリーベースで38%であり、G7先進国の中でも最も低い部類だ。安全保障上の事情がどうであれ、貿易によって必要なエネルギー、食料を確保することは、日本にとって必須である。

 日本の国土に暮らす人々が生活に困らないようにするには、日本の安全保障上の立ち位置がどうなっても、自由な交易が最大限守られなければならない。世界の分断も言われるが、できるだけヒト・モノ・カネの移動の自由が最大限確保されるよう、常に意識して振る舞うことが求められる。

 もっとも、シーレーンの安全性が確保できても、エネルギーにせよ、食料にせよ、国内で供給できないものは海外から買ってこないといけない。購入資金は何らかの格好で稼ぐ必要がある。

 ところが近年、日本の対外収支の構造はかなり変わってしまった。モノの輸出入の差額を示す貿易収支の黒字基調は消えてしまい、原油価格の上下によって貿易収支は赤字になったり黒字になったりを繰り返している。海外との間の投資・資金調達の収入・支出の差額を示す所得収支はなお黒字なので、対外収支全体としてはまだ赤字基調にはなっていない。

 ただし、所得収支の半分程度は海外で再投資されている。日本経済より成長している海外でビジネスを拡大していくために必要だからだ。所得収支が黒字だからといって安心してはいられない。