日本も金利のある世界に戻ってきた(写真:MT.PHOTOSTOCK/Shutterstock.com)

新たな年が始まった。金利のある世界に戻った日本で、金融政策の「正常化」は続くのか。日本銀行がまとめた「金融政策の多角的レビュー」を出発点に、元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が今後のポイントを解説する。(JBpress編集部)

(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)

日本銀行の「金融政策の多角的レビュー」に書かれた重要なポイントとは

 記憶は急速に上書きされる。もはやコロナの頃は随分と昔のことのようだ。金融政策についても、2023年の暮れにはイールドカーブ・コントロールの運用柔軟化が議論されていた。ゼロ金利と金利ある世界への復帰がそれぞれ2024年3月と7月である。今や、政策金利の次の引き上げはいつかが注目されている。金融の世界もまた、この1年で大きく変わった。

 内外の政治も同様だ。日本も含め、フランス、ドイツなどの与党は、総選挙の結果、過半数割れし、政治的意思決定の困難さが増している。米国の大統領および上下院の議員選挙は全て共和党の勝利に終わり、世界が「トランプ2」に備えている。状況は様変わりである。そうした中で、世界の金融市場は、そして日本の金融市場は、2025年、どういう展開となるのだろうか。

 記憶の刷新スピードが速いことを思えば、今の予想は1年後には全く当たっていないかもしれない。それでも、何が起こるか五里霧中のままで生きていくよりは、できる限りの予想を立て、現実がそれとは違う展開であることを認識して、自分のまわりで何が起こっているのかを少しでも理解しようとするのが、理知的な態度なのであろう。

 2025年の日本の金融政策を考える上で、ちょうど良い出発点となるのが、2024年12月に公表された日本銀行の「金融政策の多角的レビュー」だ。

 15の補論、8人の有識者の講評を含む、200ページを超える報告書である。過去四半世紀を振り返り日本経済の変化とそれに対する金融政策の対応の整理としては、現在、これ以上の精度と品質は期待できない力作と感じられた。

 今後の金融政策を考える上で重要と思われたのは、①非伝統的な金融政策手段は、短期金利の操作を行う伝統的な金融政策に比べ、その定量的な効果は不確実だが、②将来の金融政策を考える上では、特定の政策手段を除外するべきではなく、③非伝統的金融政策の必要が生じた場合には、コストとベネフィットを考えた上で判断する、というメッセージである。

 現状、多くのエコノミストは、トランプ2の下では、それが確定する以前に比べ、グローバル経済におけるインフレ圧力は強くなると判断している。そうだとすると、株式市場を起点に何らかの調整が始まる確率が高まるとも考えられる。