中立金利の推計には大きな幅がある
それは上述のように海外経済の要因の影響を強く受ける。米国と中国は、今日のグローバル経済の2強であり、その影響を受けることは欧州諸国なども事情は似ている。したがって、日本の金融政策の「正常化」がなお続けられるかどうかについては、どうしても米中経済の先行き次第になる側面が拭えない。
それでも、政策金利は中立金利に向かって上昇していくという議論がしきりになされている。中立金利とは、経済が定常状態に至った時に成立する金利と考えて良い。
しかし、日本銀行の総括的レビューにある分析からも分かるが、経済分析から出てくる中立金利の推計は大きな幅がある。そのように計測上は幅のある金利について、事前に何らかの決め打ちをして、それを前提に行動するのは、不確実性が充満している2025年において、あまりふさわしい行動とは言えないように思う。
結局のところ、中立な政策金利とは、その経済が置かれた景気循環において、最低のものと最高のものの中間にあると、事後的に分かるという類の金利なのではないだろうか。
景気循環のあり方、すなわち景気の山の高さや谷の低さはその都度違うので、過去を参考にすれば正確に見当がつくようなものでもない。
中立金利は、演繹思考を好む場合の出発点としては居心地が良い。しかし、不確実性が高く、かつ常に変容するマクロ経済の制御を考える場合には、むしろ帰納的にフットワーク良く動くことの方が良い結果に結び付くような気がしてならない。
日本経済は、先進国の中ではめずらしく金融政策がゼロ金利制約に直面する事態に陥ったが、その原因が必ずしも明確になっていないことは先に述べた通りである。
それを横に置いても、インフレ期待が2%にしっかりアンカーできるようになれば、確かにゼロ金利制約に直面する可能性は低下するだろう。
そうしたこともあってか、日本銀行の多角的レビューでも、2%の「物価安定の目標」の下で金融政策を運営していくことが適切としている。
そのうえで、現状はなおインフレ期待を2%にアンカーできるかどうか不確実だというのが日本銀行の見解である。