対中デリスキングを叫ぶ欧州委員会の思惑とは裏腹に、中国と欧州の間の輸出入は減る気配がない。それは、カスピ海横断輸送路(TITR)の現状を見ても明らかだ。ここに来て、ロシアを迂回するTITRとカザフスタンの存在感が高まっている背景には何があるのか。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
カスピ海横断輸送路(TITR)とは何か
対中デリスキング(中国との間で経済関係を維持しつつ経済安全保障上のリスクを減らすこと)という言葉が聞かれて久しい。欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会が打ち出したコンセプトだが、現実には、企業は中国と密接な供給網(サプライチェーン)を形成しているため、欧州委員会が号令をかけるようなデリスキングなど進まない。
このように、対中デリスキングは欧州委員会による「画餅」とも言える。一方、12月9日付の記事で、EUの政策サイトであるユーラクティブ(EURACTIV)が中央回廊またはカスピ海横断輸送路(TITR)と呼ばれる陸上の輸送ルートを通じた東西輸送に、中国とEUの双方が活路を見出していると報じたことは、大変に興味深いことである。
中国とEUを結ぶ陸上の輸送ルートに関しては、いわゆる「中欧班列」(CRE)が有名だ。CREはロシアやベラルーシを経由して中国とEUを結ぶもので、規模は着実に拡大している。一方でTITRは中国を起点に、中央アジアを経てカスピ海に至る。その後カスピ海を渡ってコーカサス地方に入り、黒海を抜け欧州に着くというルートを描く。
TITRの最大の魅力は、ロシアやベラルーシを迂回できる点にある。中国からカザフスタンを経由し、カスピ海を経由してコーカサスに入るためだ。とはいえ、TITRはカスピ海と黒海で航路を用いる必要があるため、陸路だけであるCREに比べると、輸送能力が制限されてしまうという大きな問題がある。
ところが、中国はTITRに積極的である。
ユーラクティブによると、TITRを通じた輸送量は2024年の1月から10月までで前年から68%増加し、コンテナ輸送に至っては2.7倍、さらに中国からの出荷量は25倍に急増したという。中国は2029年までに、現在年間400本程度の貨物列車数を3000本まで増やそうとしている。もちろん、EU側にニーズがあるため成立する取引だ。
TITRが機能するに当たっては、仲介役としてのカザフスタンの役割が大きい。