EUが考える以上に強固な東西貿易の力学
TITRやCREによる輸送が増えているという事実は、中国とEUとの輸送ルートが、欧州委員会が考える以上に強固であることを意味している。欧州委員会は対中デリスキングという概念でその見直しを訴えていたわけだが、そもそも、強制的に供給網の再構築を図ろうとすると、それに伴い甚大なコストが生じることはEU自身が体現している。
具体的には、EUはロシアのウクライナ侵攻に伴い、EUは化石燃料の脱ロシア化を進めようとした。その結果、天然ガスに代表される欧州のエネルギー価格は高止まりを余儀なくされ、民意がEUから離れていくことになった。欧州委員会による一方的な要求が、汎欧州的に進む右派回帰の流れを作り上げていることは否めない事実である。
それに、年明けに米国でバイデン大統領が退場し、トランプ元大統領が返り咲くことで、米国とEUとの関係は再び緊張感を高めると予想される。そうなると、EUは中国との間でデリスキングを強めるよりも、むしろ中国との関係改善に努める必要に迫られる。少なくとも、EUの企業はデリスキングを図る動機を失うことだろう。
こう整理していけば、中国とEUの間の物流は今後も活発に行われるし、カザフスタンを介する輸送ルートが使われる可能性も高いと考えられる。航路を挟むというボトルネックも、輸送量が増えれば投資が見込まれるため、徐々に緩和するかもしれない。中国からEUへのみならず、EUから中国へのモノの輸送も増えるのではないか(図表)。
【図表 カザフスタンの貿易額の国別地域別内訳】