軽視されがちな実利重視の中国の姿勢

 中国は過剰生産能力という問題を抱えて久しく、その解消のために輸出という手段を重視する。購買力を高めたとはいえ、東南アジアに輸出できるモノは引き続きローエンドからミドルレンジに属する。一方で、購買力が高いEUの場合、ハイエンドのモノまで輸出することができる。その意味で、中国にとってEUは非常に重要な市場である。

土田氏の新著『基軸通貨

 ウクライナ侵攻を巡って、ロシアとEUの関係は極度に悪化した。一方で、中国とロシアは友好関係にあるが、だからといって、中国はEUとの対立を望んでおらず、むしろ輸出先として重視している。そうであるからこそ、中国はロシアを回避する輸送ルートを用いてまでEUへモノの輸送を行う。そして、この動きは今後も続くことになる。

 こうした中国の実利性は、その実として見逃されがちである。その意味では、カザフスタンの実利性もまた注目されるところだ。ウクライナ侵攻を巡ってロシアとEUの関係が緊張する一方で、周辺の関係国が実利性に基づき行動をしている事実を正確に理解する必要がある。そうしないと、ユーラシアの国際関係を正確に捉えることができない。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。