仲介役として存在感を増すカザフスタンとロシアの距離感

 カザフスタンは、グローバルDTC社の協力の下、テズ・カスタム(Tez custom)と呼ばれるデジタル通関システムを整備し、TITRによる物流の円滑化に貢献しようと努めている。グローバルDTC社は、シンガポールに本部を構える世界最大の港湾運営会社PSAインターナショナル傘下である。

 天然資源に恵まれたカザフスタンは、旧ソ連を構成した共和国の中でも屈指の有力国である。そのカザフスタンは、もともとはロシアと強固な協力関係にあったが、2019年6月に就任したカシムジョルマト・トカエフ大統領の下で、カザフスタンは従来の対ロ追従外交を見直し、是々非々での協力関係の構築を模索するようになっている。

 例えばカザフスタンは、ロシアの制裁逃れに加担することはないと表明し、ロシアが実効支配するウクライナ東部の親ロ派地域に関しても国家承認しない姿勢を堅持する一方、今年7月にカザフスタンの首都アスタナで上海協力機構の首脳会議が開催された際には、中ロの首脳会談の場を提供するなど中立的な外交に務めている。

 また、カザフスタンは中国との経済関係を強化している。中国もまた、カザフスタンのBRICS加盟を支持したり、官民を超えた協力関係の構築を推し進めたりするなど、さまざまな形で秋波を送る。

 同時に、カザフスタンはEUとの関係も重視している。国内で豊富に産出されるウラン鉱石は、EU、特にフランスとの協力関係なしには十分に採掘しえない。

 このように、カザフスタンはロシア、中国、EUとの間で中立外交に務めている。こうした姿勢が中国とEUから高く評価されていることが、TITRを通じた東西輸送の活性化をもたらしているわけだ。仮にカザフスタンが、かつてのように対ロ追従外交の姿勢を堅持していたなら、同国は東西貿易の「仲介役」にはなりえなかったと考えられる。