墜落したアゼルバイジャン航空8243便(写真:ゲッティ=共同)

12月25日、乗員・乗客67人が乗ったアゼルバイジャン航空8243便(機体はエンブラエル190型)が墜落した。首都バクーを出発し、ロシア南部チェチェン共和国のグロズヌイに向かっていたところ、巡航高度3万フィート(約9000メートル)で異変が起き、カザフスタンに着陸地を変更。しかし、西部アクタウ空港手前に墜落し、38人が死亡、11人が重傷を負った(生存者29人)。異変とはいったい何か?墜落するまでコックピットや機内では何が起きていたのか? エンブラエルの同型機を操縦していた経験を基に、ここまで得られている情報から解明を試みたい。

(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)

ロシアは「バードストライク」を主張するが…

 緊急事態に陥った原因をロシアはバードストライク(鳥の衝突)によると明らかにしたが、ロイター通信など複数のメディアは横体に残る多数の穴が対空兵器を被弾した痕跡に似ているとして、ロシア防空システムの「パーンツィリS」による誤射の可能性を伝えた。また、ロシアの情報筋の話として、事故当時チェチェン共和国上空ではロシア軍がウクライナ軍機を迎撃していた可能性があるとしている。

 ではロシアが主張するバードストライク説は本当なのか? 結論を言うと限りなくゼロに近い。

 一般に航空機の運航では、バードストライクは高度1万フィート(約3000メートル)以下を前提に対策がとられている。理由は、鳥類の多くは高高度を飛ばないからだ。

 ごく例外としてヒマラヤ山脈で渡り鳥の目撃情報もあるが、今回のように約9000メートルという高高度で航空機がバードストライクによる被害を受けた話は聞いたことがない。

 一方、墜落後の映像で機体に多くの穴が映っていたことや、エンジン後部パネルが損傷していたことなどを考えると、何らかの砲弾によるものとする説の方が合理性がある。