アゼルバイジャン機が遭遇した飛行状態

 これまで述べた経緯から、機は酸素マスクなしで飛行できる低高度でカザフスタン西部のアクタウ空港へ向かわざるを得なくなったとみられる。

 データによると、当初の高度1万フィートから、その後約8000フィート(約2400メートル)に降下したのだが、そのような低高度での飛行は燃料を多大に消費し、速度も時速約450キロメートルへと落ちてしまう。

 その結果、カザフスタンに近づいたころには燃料がなくなり、エンジンが停止して操縦系統にも大きな影響を与えることになったと想像される。

 筆者はエンブラエル機が日本に導入されたときから3年間、ジェイエアのパイロットとして乗務した。その経験と知識から言うと、エンジンが全て停止すると油圧系統と電気系統が動かなくなるので、APU(補助エンジン)を作動させ、バックアップとする必要がある。そうしておけば仮に、エンジンが全て停止してグライダーのような状態になっても操縦は可能だからだ。

 2009年にニューヨークで起きた、いわゆる「ハドソン川の奇跡」では、サレンバーガー機長が、バードストライクが発生した直後に緊急時チェックリストで15番目に操作するAPUをとっさに作動させ、推力を失ったUSエアー機をうまくコントロールしてハドソン川に着水させたのである。

 今回の墜落について、飛行データからはアゼルバイジャン機がアクタウ空港手前に墜落するまでの約20分間、パイロットが悪戦苦闘する様子がうかがえる。

 詳しい操作状況はブラックボックス(DFDRとボイスレコーダー)の解析が必要だが、明らかに操縦系統に異常が起きて、高度と速度が目まぐるしく変化している。エンジンが1つ、2つと停止して、最終的に両方のエンジンが停止してグライダーのような状態になっていったのか、APUを作動させて操縦系統を確保できたのか、あるいはAPUの燃料もなくなり、作動が不十分になっていったのか、現時点ではわからない。