岸田首相のウクライナ訪問は危機管理についての議論も呼んだ(提供:Ukrainian Presidential Press Service/ロイター/アフロ)

3月に外遊先のインドからウクライナを訪問した岸田首相は、経由地であるポーランドへの空路を政府専用機ではなく、チャーターした外国のビジネスジェットで飛んだ。ポーランド入り時点で「電撃訪問」の情報は複数のメディアに漏れ(官邸サイドのリークと言われている)、その危機管理について物議を醸したが、一国の首相が戦争をしている当事国に向かうのに、なぜ自衛隊が運用する政府専用機を使わなかったのか。首相フライトなど政府要請による特別便の運航を経験した立場から、どのメディアも伝えない問題点を指摘しておきたい。

(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)

ビジネスジェットは民間定期便より事故率が高い

 あらためて経緯を振り返ってみる。

 3月21日にウクライナの首都キーウを訪れた岸田首相一行は、その前に訪問していたインドのニューデリーから政府専用機ではなくて民間のチャーター機を使い、ポーランドのジェシュフ空港に入った(ポーランドは紛争当事国ではない)。そこからウクライナとの国境に近いプシェミシル駅に車で移動して、列車でウクライナに入国した。

 ジェシュフ空港からキーウへの移動は、米国のバイデン大統領が2月に訪問したときと同じ経路だった。ただし、ジェシュフ空港へは、バイデン大統領はエアフォースワン(政府専用機)で向かったという大きな違いがある。

 岸田首相一行が乗ったチャーター機は、地中海のマルタに拠点を置くビジネスジェット専門の航空会社が運航するもので、使用した機体はカナダのボンバルディア「グローバル7500」。銀色の機体に赤の横線が入っているものであった。

岸田首相が登場したチャーター機と同型のボンバルディア「グローバル7500」(写真:ロイター/アフロ)

 ビジネスジェットは有名人も利用を拡大していて、何かにつけて話題になる。いずれ詳しく解説したいと考えているが、ビジネスジェットは一般の民間定期便より事故率が高いということだけは言っておきたい。

 日本政府は当ビジネスジェットの安全性や、機長以下パイロットの技量などは把握していたのだろうか。おそらくは、いわばマルタの会社に「丸投げ」したものと思われる。そのような危機管理で一国の首相を乗せて良いのか。