海外を拠点とする日本人の強盗や特殊詐欺のグループが相次いで逮捕された。2月にはリーダーが「ルフィ」を名乗るグループが、4月にはカンボジアを拠点にしたグループが日本に移送中の航空機内で逮捕された。その報道の中で、日本の領空に入ったところで逮捕と報道したメディアも目立った。しかしそれは間違いだ。日本の警察官は海外から容疑者移送中、どこで逮捕状を執行するのか、筆者も機長として協力した経験があるので明らかにしておきたい。
(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)
東南アジアから日本の領空に入るのは三宅島や新島付近
領空とは領土および領海の上空を指し、その内側を当該国の許可なく自由に航行(飛行)することは国際法上認められていない空域のことである。
その高さは、宇宙空間より下で高度100kmを境にしている、と認識されていることが比較的多いようだが、実は統一された規定はない。
最も高く飛ぶ超音速機でも高度は約5万フィート(約1万5000m)前後なので、民間航空機の場合、基線(沿岸の岬や島を直線で結んだ線)から12海里(約22km)までの海域を指す「領海」の上空すべてと言ってもよいだろう。
ルフィら逮捕された詐欺グループのように、海外で身柄を拘束した容疑者を乗せた定期便が、フィリピンから東京(成田を含む)へ飛行する場合、通常は最短コースの洋上を飛行する。
フィリピンからのフライトだと、九州から沖縄にかけての南西諸島の上空を通過するイメージがあるかもしれないが、実際に最初に日本の領空に入るのは東京都の三宅島あるいは新島付近となる。地球は円いので、よく目にする世界地図で発着地を直線で結んだルートと、空路での最短距離は異なるからだ。
報道によると、容疑者らに逮捕状が執行されたのは、フィリピンのマニラ国際空港を離陸して約1時間20分ほど北上した地点なので、正確には公海上(公空)であり、領空ではない。