富裕層や著名人、企業経営者などが使用するプライベートジェット(ビジネスジェット)。最近ではWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)出場のためメジャーリーグの大谷翔平選手やダルビッシュ有選手が利用したことでも話題になった。そのメリットは時間の節約や移動に伴うストレスの軽減など多岐にわたる。両選手やその関係者も、こうしたメリットを考慮に入れて利用したものと思うが、一方で、通常の民間定期便に比べ事故率が高いほか、乗客1人あたりの二酸化炭素排出量が多いことから「飛び恥」との批判もある。今回は主にプライベートジェットのデメリットについて考察してみたい。
筆者注:プライベートジェットもビジネスジェットも、その名称は用途によって使い分けられているだけで、ほぼ同義語と考えられる。そこで本コラムではプライベートジェットという用語で解説する。
(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)
プライベートジェットに事故が多い理由
国土交通省のデータによると、飛行回数で10万回あたりの事故率は、民間定期便の約0.4回に対して、ビジネス機全体では約1.6回となっている。
内訳を見るとオーナーが操縦した分の事故率が突出している一方、企業が所有しているものは、パイロットや機体の整備もそれなりにしっかりしていることもあり、事故率は低い。それでも民間定期便と比べると事故率は2倍程度高くなっている。
理由としてまず考えられるのは、路線資格の有無であろう。
民間定期便の場合、パイロットには離着陸する空港間の路線資格が必要とされており、一定の経験が法的に求められている。それに対し、プライベートジェットの場合には路線資格の必要もなく、未経験の地方の小さな空港で離着陸することも多い。
加えて、現地での整備体制が必ずしもしっかりしているとは限らないという事情もある。
航空の分類は、定期航空、軍事航空、そのいずれにも該当しない通称「ジェネアビ(General aviation)」に分かれる。プライベートジェットが属するのはジェネアビとなる。
機体は、ヘリコプターやセスナのような小型プロペラ機から、定期航空で使っている小型ジェット機と性能的に遜色ないものなど多岐にわたる。プライベートジェットも航空当局の所定の審査をクリアしているので、用途に応じて自由に乗ればいいのだが、オペレーションや整備については大企業が多い定期航空とはやはり一定の差があるのが実態だ。