聴覚障害がありながら勉強にも熱心だったという安優香さん。事故当日もこのお気に入りの赤いコートを身に着けていた(井出さん提供)

(柳原 三佳・ノンフィクション作家)

 交通事故で死亡した聴覚障害児の逸失利益(将来得られるはずだった収入)は、どのように算出されるべきか……。

 2月27日、注目の判決が大阪地裁で言い渡されました。

 約3年にわたって続いたこの裁判では、亡くなった女児の両親(原告側)が、「全労働者の平均賃金を基礎として算出すべき」と主張。一方、被告側は「聴覚障害者の平均賃金(全労働者の約60%)で算出すべき」としていました。近年はAI技術等の発達で、高性能の音声認識アプリも生み出され、聴覚障害者であっても活躍の場を広げています。そうした時代の変化を裁判所がどうみるかが大きな争点でした。

「聴覚障害者の労働能力が制限されること、否定できない」

 大阪地裁の判断は、「全労働者の平均賃金の85%を基礎収入とする」というものでした。裁判官は「被害者には将来さまざまな就労可能性があった」と前置きしながらも、「聴力に障害のある人はコミュニケーションに影響があるため、労働能力が制限されることは否定できない」として、全労働者の平均賃金(497万2000円)から15%減額し、被告側に約3800万円の賠償を命じたのです。

 原告である両親は、判決直後に開かれた報告集会で、無念の思いをこう語りました。

「国が障害者差別を認めるという悔しい結果になり、怒りを通り越して言葉になりません。お金じゃなく、娘が努力した11年間を認めてほしかった……。私は今日、最後の最後まで気を緩めずに、やれることをやると、亡き娘と約束しました。そして、差別的な発言をした相手に、娘の前で謝罪をさせるまで頑張っていきたいと思います」(父親の井出努さん)

「この3年間、弁護団の先生方が本当に頑張ってくださり、また聴覚障害者協会の方々も、最後の最後まで署名活動に尽力してくださいました。先生方は、聴覚レベルと学力はイコールではありませんと言ってくださり、これだけみなさんが訴えてくださったのに、司法は障害者に対し偏見を持ち、差別の目は変わらないんだと思うと、これ以上どうすればいいんですか、という気持ちになりました……」(母親のさつ美さん)

最後の誕生日(11歳)にお父さんと(井出さん提供)