(柳原 三佳・ノンフィクション作家)
「小5の娘をてんかん発作のホイールローダーに奪われてから4年半、8月29日には大阪地裁で私たち遺族の尋問が行われることになりました。加害者側の損保会社の主張は、志半ばで命を奪われた娘の11年間の努力を否定した人権差別だと思っています。言葉では言い表せない、この怒りと悔しさ……。裁判でしっかり訴えるつもりです」
そう語るのは、大阪府の井出努さん(50)です。
本件事故については、2021年、下記の記事で取り上げました。
(参考)「障害あっても努力家だった娘の人生、なぜそんなに軽んじる」 あまりに非道、「逸失利益は聞こえる人の40%」の被告側主張
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65596
事故は、2018年下2月に発生しました。下校途中、先生や友達と歩道で信号待ちをしていたところ、突然暴走してきたホイールローダーに至近距離から突っ込まれ、井出さんの長女・安優香さんが死亡、一緒にいた児童2人と教員2人も重傷を負ったのです。
亡くなった被害者の人格を貶め、遺族の心を抉るような加害者側損保会社の主張
事故を起こした運転手(当時36)には難治てんかんの持病があり、主治医からは車を運転しないよう注意されていました。にもかかわらず、虚偽の申請をして免許証を取得し、仕事で重機を運転。その行為は極めて悪質とみなされ、「危険運転致死傷罪」で起訴され、2019年3月、懲役7年の実刑判決を受け、現在収監中です。
一方、民事裁判は現在も係争中で、生まれつき聴覚障害のあった安優香さんの逸失利益をめぐって、加害者不在の争いが続いています。
加害者側の損保会社は当初、「聴覚障害者の収入は健常者の40%だ」と、基礎収入を153万520円として損害額を算出していましたが、2021年8月、「原告らの指摘により聴覚障害者の平均賃金の存在を知った」として、その額を294万7000円に引き上げてきました。それでも、原告側の主張をはるかに下回る金額のままですが、もし、遺族が損保側の最初の提示をそのまま受け入れて示談に応じていたらどうなっていたのでしょうか。
この裁判には大きな注目が集まっていますが、安優香さんの可能性や将来をも否定するかのような損保側の主張は、遺族の心に大きなダメージを与えており、大変深刻です。