亡くなった耀子さんの遺体を囲んで病院で撮影した波多野さん一家の家族写真(波多野さん提供)

(柳原 三佳・ノンフィクション作家)

 横断歩道を横断中の歩行者が、車にはねられる事故が相次いでいる。

 11月4日朝、岡山県総社市で起こった事故。直後の現場で「ママー、ママー」と、子どもが泣き叫んでいたという報道にショックを受けた人は多いだろう。本件では、幼稚園に向かう2組の母子が信号無視の車にはねられ、4歳女児と別の女児の母親が頭を強く打って意識不明の重体に。4歳女児の母親は骨盤骨折などの重傷を負い、もう一人の女児は軽傷を負ったという。

〈乗用車突っ込み女児ら4人はねる 2人が重体 岡山・総社(毎日新聞 :mainichi.jp)〉https://mainichi.jp/articles/20211104/k00/00m/040/048000c

 信号無視をした運転手は「居眠りをしていた」と供述しているそうだが、青信号を守って横断している歩行者にとってはどうすることもできない一方的な被害だ。

 また、11月7日には、愛知県安城市で飲酒運転の車が横断歩道に突っ込み、ベビーカーを押していた母親がけがをした。幸い、2歳の息子と4歳の娘にけがはなかったというが、1秒ずれていたら・・・、と思うと、やりきれない。

〈息子乗せたベビーカー押し4歳娘と歩いていた母親 横断歩道で車にはねられる 男「酒飲んでいて覚えてない」(東海テレビ)〉https://www.tokai-tv.com/tokainews/article_20211111_13426

 ちなみに、愛知県では横断歩道での事故を防ぐため、3年前から毎月11日を「横断歩道の日」と定めている。特に11月11日は、「11」がふたつ並ぶことから県警が事故防止の呼びかけに力を入れており、道行く歩行者に反射材を配布したという。しかし、いくら歩行者が反射板を身に付け、青信号を守って横断しても、信号無視の車に突っ込まれたらどうすることもできないだろう。

横断歩道上で奪われた愛娘の命

 安全なはずの横断歩道で、突然、大切な家族の命を奪われる・・・、加害者による極めて危険な運転によって平穏な暮らしを断ち切られた人々は、事故後、その理不尽な出来事にどう向き合い、また赤信号無視という危険運転はどう裁かれているのだろうか。

 2020年3月14日、葛飾区四つ木五丁目の交差点を父娘で横断中、赤信号無視の軽ワンボックス車にはねられた波多野暁生さん(44)は語る。

「私は衝突の衝撃でその瞬間の記憶がなく、意識を取り戻したとき、何が起こっているのかとっさに理解ができませんでした。ただ、自分の身体が血にまみれ、動かなくなっていたので、一緒に横断歩道を歩いていたひとり娘の耀子(ようこ・当時11歳)も相当な重傷を負っているのではないか、とは思いました。でも、まさか死んでしまうなんて・・・、とても想像はできませんでした」

 暁生さんと共に横断歩道を渡っていた耀子さんは、左側から突っ込んできた加害車に衝突されて車の下敷きになり、頸椎を骨折。搬送中の救急車の中で心肺停止状態となって死亡が確認された。

突然、命を奪われてしまった耀子さん(波多野さん提供)