(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 東京・上野動物園で生まれたジャイアントパンダの「シャンシャン」が、所有権のある中国に返還された。その惜別フィーバーぶりも、中国でのパンダ事情を知れば日本人も少しは興ざめするかもしれない。その前に、中国の食事情について。

 足が4本のものなら机と椅子、飛ぶものなら飛行機、それ以外のものなら、なんでも食べるという中国。“食は広東にあり”と言われる広東省広州市に初めて入った時のことだ。

 あるレストランの前に深いスリットのチャイナドレスを着た若い女性がメニューを抱えて立っていた。

「どれでも好きなものを選んでいいのよ」と言って微笑むから、見ると店の入口の脇には上下2段で横に伸びる集合住宅のような鳥小屋が設置されていて、そこにはハトやウズラといった小型の鳥から、アヒルやガチョウのような大型の水鳥まで、あらゆる鳥類が入れられていた。

 この生きた鳥を選んで調理して食べる。そういうシステムに、食文化の違いを覚えた。

ヘビにハクビシン、猪まで

 その広州市の食卓を支える動物市場から2002年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生したとされる。そこには鳥ばかりでなく、ヘビからタヌキやキツネの類、猪、子鹿まであらゆる野生動物が生きたまま売られていた。コブラもハクビシンもいた。

 なかでも驚かされたのは、犬や猫が四角い鉄カゴの中にぎゅうぎゅうに押し込まれて大量に取引されていたことだった。日本だったら動物虐待の誹りは免れないだろうが、それでも彼らにとって所詮は食用だ。ベンツの高級車でやって来て、猫を数匹選んで麻袋に入れさせると、そのままトランクに詰めて買っていく上客もいた。