今年2月、同園で誕生したスナネコ(生後4カ月目)。あどけないが主食はヒヨコやネズミなどの生肉である(写真:椙浦 菖子)

(取材・文・撮影:椙浦菖子)

 ここ数年で人気急上昇の動物といえば、スナネコではないだろうか。

 スナネコとは、中東や北アフリカの砂漠地帯に生息する野生ネコで、イエネコよりも小さな体に大きな耳を持ち、そのキュートなルックスから「砂漠の天使」と呼ばれている。

 現在、日本においてスナネコが飼育されている動物園は、那須どうぶつ王国、神戸どうぶつ王国、埼玉県こども動物自然公園、長崎バイオパーク、ネオパークオキナワの5園である。

 展示当初から「スナネコはペットに向きません」と積極的にアナウンスをしているが、これには理由があるのだ。

へき地から輸入されるスナネコ

 動物園がスナネコの飼育を始めたのは3年前の2019年。神戸どうぶつ王国と系列の那須どうぶつ王国が同年3月、日本で初めて展示を開始した*1

 厚生労働省が公開する『動物種別の届出状況』の年報では、2010年から2019年の間でスナネコが輸入されたのは2019年のみ、その数29頭だった。

「北アフリカやアラブから日本までの距離を考えると、動物を輸入するのは容易ではありません」

 そう話すのは、神戸どうぶつ王国(兵庫県神戸市)の園長・佐藤哲也さん。商業目的で輸入されたスナネコは、一般向けにも流通するという。

「当園に正規輸入でスナネコが4頭入ると聞いて、そんなにもたくさん入ってくるのかと驚きました。ですが、このまま4頭すべてを引き受けないと、もしかしたらペットに流れるかもしれないと考え、神戸と那須の両園で分けて受け入れました」

 スナネコは『ワシントン条約(CITES)*2』の付属書Ⅱに記載されている動物だ。通関手続きを取ったうえで、正規に輸入されていれば法的な問題はなく、一般の人が買ったとしても違法ではない。

 けれども飼いたい人の存在は、さらなる需要を呼ぶだろう。その供給を補うため、野生のスナネコの不適切な捕獲や密輸の横行の危険性をはらむ。

 実際に同園で暮らすコツメカワウソのなかには、密輸で税関に保護された個体がいる。そのコツメカワウソは、いわばペット目的による違法取引の被害者でもある。

「私どもが野生動物のペット化で危惧しているのは、動物が犯罪に巻き込まれること、さらには人間の手によって、種の絶滅を引き起こしてしまうことなのです」(佐藤さん)

密輸で保護されたコツメカワウソの「ツキ」(左:メス)と「タイヨウ」(右:オス)は繁殖が期待されている(写真:椙浦 菖子)

 いま、地球上のさまざまな野生の動植物が絶滅の危機に瀕している。その背景のひとつには、人間による野生生物の過剰な利用がある。

*1 日本動物園水族館協会加盟園では初展示

*2 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約。国際取引の規制対象となる動植物が「附属書」に掲載され、Ⅰ〜Ⅲのランクがある。ⅡおよびⅢに掲載された種については、生息国の政府が、取引が持続可能であることを確認することを条件に、許可書の申請など必要とされる手続きを踏めば取引可能。