筆者の愛猫クロベ

 人間にとって大切なパートナーである猫は、年齢を重ねると腎臓病になる宿命を背負っている。

 ペットフード協会の2021年度「全国犬猫飼育実態調査」によると、飼育されている猫の平均寿命は15.66歳だ。もし腎臓病を防ぎ、治すことができたなら、寿命は倍の30歳になるかもしれない――そう語るのは人間のさまざまな「治せなかった病気」に打ち克つ鍵となるタンパク質AIMを発見した免疫学研究者・宮崎徹教授だ。

 宮崎教授は猫腎臓病の画期的な治療薬に先駆けて、予防効果の期待されるキャットフードを2022年3月に完成させた。

 18歳になる筆者の猫、クロベも腎不全の症状が現れて治療を続けているが、このキャットフードを食べたら良い効果があるだろうか? 切なる思いでフードの狙いや効果について、宮崎教授にお話を聞いた。

https://petfood.or.jp/data/chart2021/3.pdf

猫の宿命・腎臓病治療の鍵となるタンパク質AIM

 まず、タンパク質AIMについて簡単に説明しておこう。

 AIMは動物の血液中に含まれるタンパク質で、体内で出てくるさまざまなゴミに貼り付き「これはゴミです、掃除して」という目印を付ける役割を担っている。この“ゴミ”とは、腎臓で濾過しきれなかった老廃物や肝臓などに付く脂肪、脳梗塞によって傷ついた神経細胞、がん細胞、脳に蓄積してアルツハイマー型認知症の原因になるアミロイドβなどだ。

 これらのゴミにAIMが貼り付くことで、マクロファージなどの貪食細胞がゴミを認識し、食べて掃除してくれるようになる。このようにしてAIMが働いていれば、体内では日々静かにゴミ掃除が行われていくので、ある程度までは腎不全など深刻な病気にならないようにしてくれているのだ。

 AIMは普段はIgM(免疫グロブリンM)五量体という大きなタンパク質にくっ付いているのだが、体内でゴミが発生するとIgMから飛び立ってゴミに貼り付きに行く。

 ところが猫の場合は、先天的にAIMがIgMから離れられなくなっているために、発生したゴミはその猫が生まれた時から体内に溜まり続け、早い段階から腎臓に老廃物が溜まり、ついには腎不全に至ることになる。これが猫の“宿命”なのだ。

 しかし、AIMを直接猫に投与すると腎不全を治療、予防することが可能になることが宮崎教授の研究で明らかになった。ただし、治療薬についてはまだ開発中で、製品化には時間がかかる。そこで、宮崎教授はすでに発見していたAIMをIgM五量体から外す働きのあるアミノ酸「A-30」を日常的に猫が摂取できるように配合したキャットフード「AIM30」をメーカーと開発、2022年3月に発売した。

 フードを食べることでこれまで働いたことがなかったAIMがIgMから飛び立てるようになり、体内のゴミ掃除が可能になるという。