猫好きの人ならきっと知っているだろう。どんなに大切に可愛がっている猫でも、歳を取ると腎臓が悪くなる宿命を背負っていることを。
筆者もこれまで8匹の猫と人生を共にしたが、10歳を超えられたのは2匹だけ。16歳の長寿を遂げた1匹はやはり腎不全となり、苦しみながら弱っていった。その間、飼い主の私にできたことは、点滴を打つために毎日、動物病院に連れて行ってやることだけだった。
現在、一緒に暮らすクロベは17歳。まだ腎臓に大きなダメージはないが、いずれ同じ宿命が待っていると覚悟しているところに朗報が舞い込んだのは2016年。東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター分子病態医科学部門の宮崎徹教授が、猫に腎不全が多発する原因を究明し、そこから画期的な治療薬ができるという。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で資金難となり開発がストップしているというニュースが、今年7月に報じられた。(外部リンク:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021070800906&g=soc)
そこから事態は急展開を迎えた。「夢の新薬開発」のピンチを知った愛猫家たちから、かつてないスピードと規模で東京大学基金に寄付が寄せられたのだ。8月6日現在で1万2800件、総額1億5700万円が集まったという。
世界中の愛猫家の期待を背負う宮崎教授は、本来は人間のお医者さんであり研究者である。ネコ腎臓病治療薬も人間の疾患研究から生まれたものだ。新薬のカギとなるのは、哺乳類の血液中に含まれるタンパク質「AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)」だという。AIMとは何か、なぜ猫を救えるのか、そして人間のどんな病気に効くのか、話を聞いた。