――完成してもAIM薬の値段は高くなってしまうのでしょうか。

宮崎 私は、今回のご寄付が社会現象のようになったこともあり、「皆さんと一緒に作った薬」にできないかと考えています。創薬研究において草の根で集まったご寄付が1億円を超えるのは前例のないことです。いただいたお金を全面的に猫薬に投入して完成できれば、それは私たちだけでなく皆さんと作った薬ですから、理想としては実費だけで打てるようにしたいのですね。タンパク質製剤は動物でも1回10万円、20万円の値段を付けたいくらいのコストがかかるものなのでビジネス的には難しいでしょうが、数千円から1万円くらいにできないものか。すべての猫が宿命的に背負う病で生涯に何回か定期的に投与しなくてはいけないので、なるべく飼い主さんにかかるコストが抑えられるような仕組みや制度が作れないものでしょうか。さらに猫がこの薬やフードで健康になることは、人間の治療薬開発にも大いに役立ちます。この記事を読んでくださった方々に、ぜひそのようなアイデアを考えていただきたいです。

(外部リンク)東京大学基金「宮崎徹教授による猫の腎臓病治療薬研究へのご寄付について」
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0802_00014.html

猫も人間も元気なまま長生きする時代に

――仔猫の頃から予防的にとなると1回1万円くらいなら、なんとかなりそうに思います。

宮崎 投与する頻度にもよりますよね。若い間はそんなにゴミも溜まっていないので、予防的に1年に2回くらい他のワクチンと一緒にうつ。あるいはフードで予防しておいて、不幸にして発症し進行してしまったらAIM薬を使っていただくというのがいいかもしれません。腎臓病は加齢だけでなく感染症がきっかけで発症することもありますからね。

――AIMは他の病気や体調不良も抑えてくれる可能性がありますから、猫が30年生きる時代になれば、飼い主が先に逝ってしまわぬようにと身の引き締まる思いです。

宮崎 人間が猫に看取られることになったら、残された猫はどうするんだというご意見もいただきました。私は2点考えていて、1つは薬を開発すると同時に残されてしまう猫のための施設など猫保護の活動を始めるということ。もう1つは、AIMが人の薬として実現すれば、人間も体の中の自然なメカニズムで病気を治したり抑えたりすることが可能になります。チューブに繋がれて長生きするのではなく、真に病気が起こらない健康なままで本来の寿命をまっとうすることが可能になり、それは120歳くらいだと考えられていますが、そうなれば最期まで一緒にいられる。それが理想ではないでしょうか。

――1億円を超える寄付金が集まったことは、先生も驚かれたでしょうか。

宮崎 非常に驚きました。そもそも薬の開発は実現できるかどうかわからないものなので、クラウドファンディングも寄付の募集も一切やっていませんでした。おそらく一般の方々は薬を作る研究にいったいどのくらいのお金がかかるのかイメージできないと思いますが、人間の薬は何十億円、いや、もっとかかることがほとんどですし、猫の薬も数億円はかかります。しかし、記事をきっかけにSNSで拡散され、その一端を支えられる金額をご寄付いただき、本当に感謝感激です。