- 自民党の政治資金パーティーを巡る事件の発端は、神戸学院大学の上脇博之教授が政治団体の収支報告書をしらみつぶしにチェックし、不正に気付いたことだった。
- 今回の事件は上脇教授の力業で発覚したが、膨大なデータの分析は本来はAIの得意技である。現に、米国では政治家のインサイダー取引を見抜くAIも登場している。
- AIが扱えるデジタルデータになっていることが前提だが、これからの汚職摘発ではAIが主役になるかもしれない。
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
続く政治家のスキャンダル
一連の議員の処分が発表されたものの、世論からの批判が収束する気配を見せない、自民党の政治資金パーティーを巡る事件。そもそもこの一件が発覚したのは、神戸学院大学の上脇博之教授が政治団体の収支報告書をしらみつぶしにチェックして、不正に気付いたことがきっかけだった。
上脇教授は毎日放送のインタビュー記事において、収支報告書の記載内容を「もう全部、一つ一つをチェックした」と述べ、その作業について「もう正直言ってね、心が折れそう、本当に心が折れそうでしたね」と感想を述べている。
その熱意によって、自民党の5つの派閥が政治資金パーティーから得られた多額の収入を収支報告書に記載していなかったことが明らかになり、上脇教授が告発状を提出。その結果、自民党が幹部4人含む39人を処分(人数は2024年4月4日時点)するまでに至ったのは、皆さんご存知の通りだ。
膨大なデータから、隠されていた真実を明らかにする――。それは昔から、さまざまな権力の腐敗を暴く手段として有効なものの一つだった。
たとえば、2016年に起きたパナマ文書事件では、パナマの法律事務所から漏洩した、実に2.6テラバイトにも達した膨大な文書データ(これが「パナマ文書」と呼ばれた)を世界中のジャーナリストたちが協力して分析。その結果、世界各国の政治家や富裕層が税金逃れのための資産隠しを行っていた実態が明らかになり、多くの逮捕者が出ることとなった。
しかし、ジャーナリズムや研究機関の低迷が問題となる中、そうした手間のかかる調査活動を行うのが難しい状況となっている。分析が必ず成功するわけではなく、また権力者を相手にするということは、時に大きなリスクにさらされる(パナマ文書事件では爆弾で殺害されたジャーナリストもいる<参考記事>)。
一方で、社会全体のデジタル化が進んだことにより、分析に使えるデータ量は増加している。それは上脇教授のような「しらみつぶし」型の調査にとって福音であると同時に、より大きな労力が必要になるという点で、頭の痛い問題と言えるだろう。
ならば面倒なデータ分析は、機械、特にAIに任せてしまえばいいのではないか。そんな発想から、さまざまな取り組みが始まっている。その中でも、興味深い研究がカリフォルニア大学バークレー校の研究者らから発表された。彼らが開発したのは、その名も「PoliWatch」というAIだ。