医学の常識を越えるアウトロー

――AIMによる治療は、人間に限ってみても脳から腎臓までさまざまな場所の病気に効果があるとのことですが、一人の研究者が幅広い臓器にわたる治療法を手がけられるのは珍しいのではないでしょうか。

宮崎 そうですね。医学研究は臓器ごとに分かれて専門化しているものなので、私はアウトローです。製薬会社でも1つの病気には1つの薬という考え方が根本にありますから、なかなか理解されづらいのですよ。私としてはAIMによってさまざまな病気が治る可能性があるので、とにかく早く薬にしたいのですね。人間の病気でインパクトが強いのは、やはり脳と腎臓です。この2つはダメージを受けると透析など長期の治療を受けなければならない。しかもその治療はやらなければ死ぬけれども、臓器は健康な状態には二度とならないという過酷なものです。患者さんのQOLは著しく下がり、学校や仕事、結婚、出産などライフステージにも影響します。だからこそ早く薬として届けたいのですが、1つの病気に1つの薬という西洋医学の常識から外れているために様々な壁に阻まれているように感じます。

資金難を克服し、何とかプロジェクトを再開するために刊行された『猫が30歳まで生きる日——治せなかった病気に打ち克つタンパク質「AIM」の発見』(宮崎徹著、時事通信社)

 私は臨床医の頃に、治らない病気がこんなにもあるのかと衝撃を受けて基礎研究の道に進みました。フランス、スイス、アメリカ、日本と渡り歩きながら一貫してAIMを研究してきましたが、AIMによるゴミ掃除が全身の病気に影響するということが、ここ5年ほどでようやく見えてきました。最近では多くの国で創薬ベンチャーが作られて開発が加速していますが、日本はその流れで後れを取っていると言われます。

 しかし、AIMに関しては日本だから実現しないというわけではないと思っています。1つの病気、症状に効く薬の開発という西洋医学の常識があるので、海外での実現は難しいでしょう。「全身に効果がある薬」というのは東洋医学系の考え方なので、私が日本人だからこそ見つけられたのかもしれませんし、西洋と東洋の医学がバランス良く存在できる日本ならでは開発できる薬だと考えています。