天体望遠鏡をのぞく成蹊の田中博春教諭

 地球温暖化、化石燃料の燃焼、南海トラフ地震……我々がいま抱えている大問題にはみな「地学」が関わっている。だが、地学は高校では案外学ばれていないという。いったいなぜなのか、私立中高における地学教育の最新事情をリポートする。

理科関係の実験室・講義室だけで8つもある「学習院女子」

 ある雑誌から、「NHKの『ブラタモリ』の高視聴率に見られるように、世間では地学に関心が高いのに、なぜ高校では地学の人気がないのか」という取材依頼が来た。以前その雑誌の座談会で「地学をちゃんと教えている学校は伝統校に多い」と話したことを担当記者が覚えていたのだ。

 筆者は仕事柄学校を訪れることが多いが、物理・化学・生物の実験室はあるが、地学実験室がある学校はめったにない。地学の専任教員がいる学校も限られている。子ども時代、岩石好きは少ないにしても、星座の図鑑に夢中、ロケット作りに熱中、気象予報士に憧れた……という子は多かったはずなのに、中高で途切れてしまうのである。

地学教室の廊下(学習院女子中・高等科)

 そこで、以前訪れた際、女子校なのに理科関係の実験室・講義室が8室もあり、地学の専任教員がいた学習院女子中・高等科に問い合わせてみた。学習院女子は今さら説明するまでもなく皇族も通う由緒正しい名門校だ。

学習院女子中・高等科(東京都新宿区)

 質問に答えてくれたのは、地学の植松英行教諭。地学教育のベーシックな部分がよく理解できたので、そのまま紹介しよう。

「地学は中学や高校で学ぶ理科の他の3分野、物理・化学・生物と比較すると応用科学的な要素が多いと考えています。非常に古い時代から自然科学の1部門として認められてきた物理・化学・生物の基礎科学に比べると、地学の成立は比較的新しく、直接的に人の役に立つ自然科学分野(研究分野)として認めてもらうことを常に意識してきたのではないかと思います。時代によって強調される部分は変化してきますが、地学は資源科学であり、防災科学であり、環境科学という側面も持っています。その入り口が中高の地学教育なのです」

 資源科学、防災科学、環境科学それぞれの具体的な側面についても語ってくれたが、ここでは省略する。地学に力を入れる学校が少ないことについてはこう語ってくれた。

「以前は必修教科だったので、各校に地学の専任または非常勤の教員がいましたが、今では教員自体が少なく、地学の魅力を伝える機会が乏しくなっています。地学教育には、地質学、地球物理学、天文学、気象学などが含まれており、あまりにも学ぶ範囲が広いため、薄く広く学ぶという感じが強くなります。教えるほうとしても教えにくく、学ぶ側としても学びにくいという部分もあったのかもしれません。そのため生徒からの地学を学びたいという声も少なくなり、悪循環になっている気がします」(植松教諭)

 地学の専任教員を置いていない学校の校長にその理由を聞くと、概ね次のような答えが返ってくる。

・大学受験で必要がないから、そもそも地学を学ぼうとする生徒が少ない
・地学実験室を設けるには、天体観測望遠鏡、岩石標本、気象観測設備などかなりのお金がかかる

 確かに調べてみると、共通テスト・理科2の受験者数は、物理が14万6041人、化学が18万2359人、生物が5万7878人に対して、地学はわずか1356人しかいない。理工系大学の多くが試験科目として物理・化学を指定していることが理由だ。

 そんな環境下でも地学実験室を有しているのはどんな学校なのか──。興味がわき、理科の先生の間で評価の高い成蹊中学・高等学校と海城中学高等学校を実際に訪ねてみた。