97年間1日も休むことなく気象観測を継続する「成蹊」

 成蹊はお坊ちゃん・お嬢さんが通う学校として知られ、小学校から大学院までが武蔵野の緑豊かなキャンパスに揃っている。

 成蹊には高校レベルを超えた標本や実験器具を備えた独立した理科館がある。講義室・実験室が計11室あるほか、屋上には屈折望遠鏡を備えた天体ドームまである。大正時代に現在も残る学園本館に理科の教室が作られていて、今の理科棟は東京オリンピックのころに建築されている。60年近く経ているだけに古いが、貫禄がある。

理科館屋上の天体ドーム外観(成蹊中学・高等学校/東京都武蔵野市)

 迎えてくれたのは田中博春教諭。名刺には「成蹊気象観測所所長、理学博士」とあった。成蹊では地学は中1と高2の文系が学ぶようになっている。

 奥の地学のフロアに向かう途中、手前の生物フロアでニワトリの鳴き声がする。興味がわいて立ち寄ってみると、廊下にトキ、アホウドリ、カワウソのはく製が。生物実験室をのぞくと、カルちゃんと名付けられた大きなニワトリが出迎えてくれた。壁際には魚の水槽が40余りも並んでいる。春休みなのに女子生徒が一人出てきていた。聞けば、担当する魚の水槽の水換えに来たのだとか。

 地学実験室にはアネロイド式気圧計、フォルタン式気圧計のほか雨量計、風向風速計など多種多様な機器が備えられている。準備室にも入れてもらったが、壁には額に入った賞状が2つ飾られていた。1つは2004年に「地球環境功労賞環境大臣賞」受賞したときのものだ。アメダス観測が導入される1976年まで気象庁から地上気象観測業務を委託された「吉祥寺観測所」として、公的な役割を果たしてきたことへの感謝状である。

 観測は97年間1日たりとも途切れさせたことがない。田中先生は5年前に成蹊に赴任。学校の近所に住み、元日も気象観測に通い、病気・怪我もしないよう気をつける日々だったという。昨年、学校が気象観測所のサポートスタッフを入れてくれたことで今は楽になったそうである。

成蹊の地学授業風景。男女が共に学ぶ

 成蹊では気象を学ぶ中学1年生全員が気象観測に関わっている。廊下に貼ってある大きなグラフの下に当番の生徒が名前を記入するようになっていた。同じ建物には天文気象部の部室もあり、黒板には歴代の部長名が手書きで記されている。現在部員は30名ほどで男女半々だという。

 屋上に上ると天体ドームがあり、大きな望遠鏡が据え付けられていて、パソコンとつないで別室からも操作できるようになっている。

学内の芝生にある露場には百葉箱や雨量計も設置されている(成蹊)

 理科館から少し離れたところの芝生には露場があり、百葉箱や雨量計などが設置されている。百葉箱の中には週間の自記温度計、最高最低温度計、毛髪湿度計などアナログ機器が置かれている。それらの一部を使い、毎日決まった時間に生徒が観測するようになっている。

 気象観測所露場に建てられた案内板には、「観察して、統計的に整理して結論に導く、これこそ自然科学の基礎」というフレーズがあった。成蹊が生徒に実体験させるのはこの精神を身につけてほしいからなのである。

 校舎に戻る途中、あちこちに小型防犯カメラのようなものが目についた。尋ねると、校内30カ所で気温を測定しているとのことであった。成蹊の気象観測は実に徹底しているのである。