飼い主にも研究に参加してもらうことで、さらなる前進を
――フードを食べる猫について、そのようなリサーチは行われるのですか?
宮崎 食べている猫の状態、病気であればその症状や変化などを飼い主さんから定期的にフィードバックしてもらい、研究情報として整理していこうと考えています。食べている量や期間、どのような変化があったかなどデータ化できれば、今後のフード改良や療法食、治療薬の開発にも大切なデータになるでしょう。メーカーのマルカンをはじめ、猫のAIM腎臓治療薬を開発するきっかけとなった獣医師の小林元郎先生にもご協力いただき、他の獣医さんたちにも声掛けしてもらって進めようとしているところです。
――実験室の動物ではなく、普通に暮らしている飼い猫がどうなるかという生活の中でのデータですね。
宮崎 これがすごく重要だと思うのです。人間の医療においても研究者がデータを積み上げたものが実際に臨床の現場ではまったく通用しないこともありますし、逆に実験上では「そんなバカな」というようなことが現場で絶大な効果があったりします。現場であるおうちの猫に食べさせたデータをこちらで解析させていただければ、本当に貴重なデータになると思います。
AIMの働きは血液中のデータが改善していくだけではないらしく、医者としては怪しい言い方になってしまうのですが、投与した後にはとにかく元気になっていくのですね。本当にゴミ掃除だけなのか? 他にも大事なことをしているのではないか? とまさに今、考えているところです。
昨年、脳梗塞に関する論文を発表しました。血栓により詰まった血管周辺の脳細胞が死ぬことで炎症を起こすタンパク質が放出され、炎症が広がると7~10日で脳が腫れたり、正常だった神経細胞が傷ついたりして症状が悪化し脳梗塞の病態になります。マウスによる実験で、この間にAIMを投与すると炎症を取って脳梗塞の広がりを抑え、生存率や神経症状がよくなることがわかりました。
AIMを投与したマウスは脳梗塞を起こした部分が小さくなる以上に、元気になって生存率もいいのです。確かに脳梗塞は小さくなっているけれど、投与していないマウスとの生存率の差の大きさや元気さが、ゴミ掃除だけで説明できるのだろうかという疑問が頭を占めていて、プラスαの働きがあるのではないかとずっと考えているんです。
――その「元気そうな様子」というのがフードを食べた猫ではどんなところに現れるのか、そばにいる飼い主さんの観察がプラスαの発見につながるかもしれないと。
宮崎 フードを食べた猫のAIMは多少なりとも活性化して、ゴミを取ること中心に何かをするわけです。その時に明らかに食欲が増したとか体の動きがいいとか、毛量が増えたなど、研究側からは想像できなかったようなことを飼い主さんの観察によってヒントを得られることがあるでしょう。AIMについて新しい発見が、飼い主さんの観察から生まれる可能性は大いにあります。