サウジアラビアを訪問し、ムハマンド・ビン・サルマーン皇太子と会談したウクライナのゼレンスキー大統領(3月11日撮影、ウクライナ大統領府のサイトより)

 2025年4月18日、米国のドナルド・トランプ大統領は、ロシアやウクライナが和平合意への到達を「とても難しくする」なら、米国はウクライナでの戦争をめぐる協議の仲介を「見送る」ことになると述べた。

 トランプ氏は大統領執務室で記者団に対し、自分は「具体的な日数」内での停戦実現を期待しているのではないが、「素早い」実現を望んでいると語った。

 さて、米国の仲介によるウクライナの停戦交渉が停滞している。

 筆者はトランプ氏がウクライナ停戦の仲介に関心を失うのではないかと案じていたが、まさに現実のものとなった。

 トランプ大統領が停戦交渉の仲介をやめると発言したのには、2つの理由がある。

 一つは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が停戦を望んでおらず、停戦交渉がトランプ大統領の思うように進まないことである。

 もう一つは、トランプ政権にとって、ウクライナの停戦交渉より関税政策の優先度が高いことである。

 戦況はロシアにとって優勢である。

 プーチン氏は、急いで停戦する必要はないと考えている。そして、停戦を急ぎ、ロシアに融和的な姿勢をとるトランプ氏を「いいカモ」と見なしている。

 ビジネス上のディールに自信を示すトランプ氏は大統領選前の2023年に、「私が大統領なら24時間以内に終わらせる」と大見得を切った。

 しかし、実際に停戦協議に入ると、プーチン氏の方が外交交渉では1枚も2枚も上手だった。

 トランプ氏もスティーブ・ウィトコフ中東特使も、プーチン氏の発言をうのみにして「プーチンは停戦を望んでいる」と発言するなどプーチン氏の思いのままに操られているように見える。

 また、トランプ大統領は4月2日に貿易相手国に対する相互関税、いわゆるトランプ関税を発表した。

 トランプ関税は、国際経済を大混乱に陥れると共に朝令暮改を繰り返すなど戦略も計画もないことを露呈した。

 米議会も米国民も不満を募らせている。

 さらに、関税政策を巡りイーロン・マスク氏と、ピーター・ナバロ貿易・製造業担当上級顧問の対立も明らかになった。

 今や、「トランプ政権の終わりの始まり」との論評も見られる。

 ところで、トランプ氏から「仲介を見送る」発言が飛び出した前日の4月17日、ウクライナ和平実現の方策を協議するためパリを訪れたマルコ・ルビオ米国務長官は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領らとの会合で、ウクライナでの和平実現に向けた枠組みを提示した。

 会合には、ウクライナのアンドリー・イェルマーク大統領府長官、アンドリー・シビハ外相、英国のデイビッド・ラミー外相、ドイツのイェンス・プレトナー首相補佐官が出席した。

 ルビオ氏は、マクロン氏らとの会合の後、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と電話会談し、ウクライナ戦争に関わるすべての当事者に対し、「恒久かつ永続的な和平の枠組み」を提示したことを伝えた。

 ロシア外務省によると、ラブロフ氏はルビオ氏に対し、ウクライナ紛争の長年の原因を取り除くため、米国と引き続き共同で取り組む用意があると伝えた。

 ラブロフ氏の「ウクライナ紛争の長年の原因を取り除く」発言は、和平合意を拒否することと同じである。

 ロシアは、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)非加盟と非武装を停戦合意の条件としている。

 さらに、ウクライナにおける親ロシア派政権の誕生を狙って、すなわち親欧米派のゼレンスキー氏の排除を狙って、ウクライナの大統領選挙を画策している。

 しかし、これにはトランプ大統領も反対している。

 ロシアは、ウクライナの非武装を条件としているが、これは、ウクライナが絶対にのまない条件である。

 これまでにウクライナは十分に譲歩してきている。

 ロシアが、現在占領しているウクライナ東・南部4州の支配継続で満足しない限り停戦あるいは和平は達成できないであろう。

 さて、トランプ氏はウクライナ戦争は欧州の戦争であり、欧州の国々がウクライナを支援すべきだと言う。

 では、トランプ氏はウクライナを完全に見捨てる気なのか。

 そうではない。トランプ氏は、安全保障の確約を求めるウクライナに、「鉱物資源の開発に米国が関与することがロシアの行動を思いとどまらせ、ウクライナの安全を保証する」と繰り返し発言している。

 鉱物資源の開発に米国が関与すれば、多くの米国人がウクライナ領に存在することになるので、ロシアがウクライナ領土を軍事攻撃すれば米国人が犠牲となり、自国民保護のため米軍がウクライナに派兵されるという理屈である。この理屈にも一理ある。

 トランプ米政権とウクライナは、ウクライナの鉱物資源の権益に関する協定に4月24日に署名する見通しである。

 ちなみに、本稿を記述中の4月19日に、プーチン大統領は、唐突に4月20日のキリスト教の復活祭にあわせて30時間の停戦を一方的に宣言した。

 これは、トランプ大統領の停戦交渉の仲介をやめる発言に対して、停戦への前向きな意思があるというメッセージであると思われる。

 しかし、筆者は、大勢は変わらず遅からずトランプ氏は停戦交渉仲介を断念すると見ている。

 従って、本稿ではトランプ氏が停戦交渉の仲介を断念した後のウクライナ・ロシア二国間の停戦交渉を予測してみたい。

 以下、初めに開戦初期のウクライナ・ロシア二国間の停戦交渉の経緯について述べ、次にトランプ大統領の仲介による停戦交渉の経緯について述べる。

 最後にウクライナ・ロシア二国間の停戦交渉の見通しについて述べる。